無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!

 入院五日にして、ようやく退院の許可が下り自宅に戻ることができた。

 私たち夫婦の住まいは、病院から私の足で歩いて十五分のところにある。結婚したときに入居した新築賃貸マンションだ。

 セキュリティ面がしっかりしているし、マンション内にジムやサロンなど設備が充実している。

 一階の広いロビーの奥手には、ホテルのチェックインをするときのようなカウンターがありコンシュルジュが常駐しているため、宅配便の受け渡しやクリーニングなどのサービス関係から来客対応などを任せられるのでとても助かっている。

 幼い頃から日本家屋の一軒家で育った私は、洗練されたマンションライフに引っ越し当初は胸をときめかせたものだ。

 今思うとあの頃は克樹さんの口数の少なさに若干の不安を感じながらも、結婚生活に希望を抱いていた。

「大丈夫か?」

 マンションの車寄せでタクシーの支払いを終えた克樹さんが、先に降りて待っていた私に気遣いの声をかける。

「大丈夫」

 ただかなり戸惑ってはいるけれど。

 まさか克樹さんが私の退院に付き添ってくれるとは思わなかったのでひとりで帰る気満々だったから、私服姿の彼が病室にやって来たときには驚いた。しかも退院手続きまで済ませているという。

 あまり長く病院を抜けられないので家まで送るだけとのことだが”妻の退院に付き添う“なんて普通の夫らしい行動を彼がするなんて予想外だった。

 初めは周りの目を気にしてのことかと思った。でもその割にはしきりと私を心配する声が聞こえてくる。

 ここ数日、私は不思議な声について考え仮定を立てた。
 分かっていることは、この現象は克樹さんに限って起きる。そして常に聞こえているわけではないので、何等かの条件があるのだろう。

 この現象は私の妄想でも幻聴でもなく、克樹さんの心の声ではないかと疑っている。
 私の仮説は、ほぼ間違いないだろう。
 ただ、あと一息確信できるような何かが欲しい。
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