無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
恋愛だけは縁がなかったけれど、他は全てに恵まれていたと思う。
そんな中、父が勝手に決めた加賀谷家との縁談。私は初めは全く乗り気ではなく抵抗していた。
結婚に関心がなかった訳じゃない。
むしろ憧れを持っていた。私もいつか愛する夫と温かい家庭を持ちたいと、平凡だけれど幸せな未来を夢見る気持ちは有ったのだ。
でも私は自他ともに認める男運がない女だった。
それまで何人か好きになった相手はいるけれど、たいていが彼女持ちだから恋人関係に発展しようがなく、告白すらしないまま片思いで終了する。
交際を申し込まれて付き合ったことが二度ほどあるが、ひとりは一見裕福に見えるのに実は借金まみれで私が相続する資産目当てのだらしがない人だった。
もうひとりは物腰柔らかなとても優しい人だったけれど、蓋を開けてみると妻子持ちであやうく不倫をするところだったのだ。彼も私の実家の資産が目当てだったようだ。
そんなことが立て続けに起きたため、私は恋愛をする気力がなくなっていた。
結婚なんて到底無理だから、克樹さんとの縁談をどうにか断れないかと考えていた。
でも父に半ば無理やり連れられて行った料亭で克樹さんと初めて会ったとき、私の気持ちはころりと変わった。彼となら結婚してもいいかもしれないと考えを改めたのだ。
正直に言えば、彼の端正な容姿に惹かれたというのはある。今まで出会ったどの男性よりも素敵な人だと思った。
脳外科医としても非常に優秀とのことだった。それは彼が懸命に努力して、知識と技術を身に着けてきた証だろう。
真摯に努力する人は尊敬できる。
それに政略結婚なのだから、これまでのように一方的に私の実家の資産を当てにするようなことはないはずだ。
これは非常に恵まれた出会いなのではないだろうか。
克樹さんの口数が少なくお見合いに乗り気に見えないところは気になったが、初対面だし両家の親がいる場でのこと。
少しずつお互いのことを知っていき、夫婦らしくなればいいいのでは?
私はそんなふうに前向きに考えて結婚に踏み切った。
お見合いの際、克樹さんの両親が『いずれは病院の運営に参加してほしい。期待していますよ』と言っていたから居心地がよかったコンサルティング会社を退職して、医療業界についての勉強だってしていた。
婚約期間中の克樹さんはオペだとか、急患対応だとかで滅多に会うことが出来なかったけれど、外科医の妻とはこういうものなのだろうと大して気にせず、むしろ患者に頼られている克樹さんはすごいなと感心していた。
会えない間、私は勉強をしよう。結婚したら即戦力になれるように頑張ろう。なんてやたらと前向きに考えて。しかしいざ結婚してみると思っていたのとは全く違った。
克樹さんは何日経っても打ち解けてくれないし、病院の仕事に私を関わらせる気はないようだった。
義父母が言っていた『期待していますよ』はただのリップサービスだったと気づくまでに、そう時間がかからなかった。
それでも不満と失望から目を背け、いずれは良くなると過ごしていたのだけれど……本当に無駄な時間だった。
「ねえ、眉間にものすごく深い溝ができてるよ」
杏子が呆れたような顔で自分の眉間を指さした。
「え、本当に?」
「うん。しわになるから気をつけなよ。まあ羽菜がストレスを貯めているのは分かるけど」
「そうでしょう?」
よかった、理解して貰えて。さすが親友。
「今回、たまりにたまった不満が爆発しちゃったんだよね?」
「その通り」
「でもさ、そもそも羽菜の勘違いだったんじゃない?」
うんうんと頷いていた私は、思いがけない杏子の言葉に首を傾げた。
「勘違い?」
「そう。だって克樹さんって心の声では羽菜のこと大事に思ってそうじゃない?」
「それは……」
私は反論できずに口ごもった。たしかに杏子が言う通り、心の声では常に私のことを案じているし、好意を感じるときだってある。
でも、あれが心の声だと確信してからも、私はどうしても信じることができないでいる。
「婚約期間も合わせると一年以上素っ気なくされてきたんだよ。私が病院に関わるのを嫌がるのも仕事中にまで顔を会わせたくないからとしか思えない。それなのに離婚を切り出した途端に良い夫みたいな態度を取られても信じられないよ。ただ離婚を回避するために演技しているんじゃない?」
過去の借金男も不倫男も、初めはとても優しかったのだ。礼儀正しくて私の目からは紳士に見えた。
「羽菜が好きだから離婚を回避したいんじゃないの? 反省して態度を改めているならいいと思うけど」
のん気な杏子の言葉に私はむっと眉をひそめた。
「杏子は騙されたことがないから楽観的に考えられるんだよ」
そんな中、父が勝手に決めた加賀谷家との縁談。私は初めは全く乗り気ではなく抵抗していた。
結婚に関心がなかった訳じゃない。
むしろ憧れを持っていた。私もいつか愛する夫と温かい家庭を持ちたいと、平凡だけれど幸せな未来を夢見る気持ちは有ったのだ。
でも私は自他ともに認める男運がない女だった。
それまで何人か好きになった相手はいるけれど、たいていが彼女持ちだから恋人関係に発展しようがなく、告白すらしないまま片思いで終了する。
交際を申し込まれて付き合ったことが二度ほどあるが、ひとりは一見裕福に見えるのに実は借金まみれで私が相続する資産目当てのだらしがない人だった。
もうひとりは物腰柔らかなとても優しい人だったけれど、蓋を開けてみると妻子持ちであやうく不倫をするところだったのだ。彼も私の実家の資産が目当てだったようだ。
そんなことが立て続けに起きたため、私は恋愛をする気力がなくなっていた。
結婚なんて到底無理だから、克樹さんとの縁談をどうにか断れないかと考えていた。
でも父に半ば無理やり連れられて行った料亭で克樹さんと初めて会ったとき、私の気持ちはころりと変わった。彼となら結婚してもいいかもしれないと考えを改めたのだ。
正直に言えば、彼の端正な容姿に惹かれたというのはある。今まで出会ったどの男性よりも素敵な人だと思った。
脳外科医としても非常に優秀とのことだった。それは彼が懸命に努力して、知識と技術を身に着けてきた証だろう。
真摯に努力する人は尊敬できる。
それに政略結婚なのだから、これまでのように一方的に私の実家の資産を当てにするようなことはないはずだ。
これは非常に恵まれた出会いなのではないだろうか。
克樹さんの口数が少なくお見合いに乗り気に見えないところは気になったが、初対面だし両家の親がいる場でのこと。
少しずつお互いのことを知っていき、夫婦らしくなればいいいのでは?
私はそんなふうに前向きに考えて結婚に踏み切った。
お見合いの際、克樹さんの両親が『いずれは病院の運営に参加してほしい。期待していますよ』と言っていたから居心地がよかったコンサルティング会社を退職して、医療業界についての勉強だってしていた。
婚約期間中の克樹さんはオペだとか、急患対応だとかで滅多に会うことが出来なかったけれど、外科医の妻とはこういうものなのだろうと大して気にせず、むしろ患者に頼られている克樹さんはすごいなと感心していた。
会えない間、私は勉強をしよう。結婚したら即戦力になれるように頑張ろう。なんてやたらと前向きに考えて。しかしいざ結婚してみると思っていたのとは全く違った。
克樹さんは何日経っても打ち解けてくれないし、病院の仕事に私を関わらせる気はないようだった。
義父母が言っていた『期待していますよ』はただのリップサービスだったと気づくまでに、そう時間がかからなかった。
それでも不満と失望から目を背け、いずれは良くなると過ごしていたのだけれど……本当に無駄な時間だった。
「ねえ、眉間にものすごく深い溝ができてるよ」
杏子が呆れたような顔で自分の眉間を指さした。
「え、本当に?」
「うん。しわになるから気をつけなよ。まあ羽菜がストレスを貯めているのは分かるけど」
「そうでしょう?」
よかった、理解して貰えて。さすが親友。
「今回、たまりにたまった不満が爆発しちゃったんだよね?」
「その通り」
「でもさ、そもそも羽菜の勘違いだったんじゃない?」
うんうんと頷いていた私は、思いがけない杏子の言葉に首を傾げた。
「勘違い?」
「そう。だって克樹さんって心の声では羽菜のこと大事に思ってそうじゃない?」
「それは……」
私は反論できずに口ごもった。たしかに杏子が言う通り、心の声では常に私のことを案じているし、好意を感じるときだってある。
でも、あれが心の声だと確信してからも、私はどうしても信じることができないでいる。
「婚約期間も合わせると一年以上素っ気なくされてきたんだよ。私が病院に関わるのを嫌がるのも仕事中にまで顔を会わせたくないからとしか思えない。それなのに離婚を切り出した途端に良い夫みたいな態度を取られても信じられないよ。ただ離婚を回避するために演技しているんじゃない?」
過去の借金男も不倫男も、初めはとても優しかったのだ。礼儀正しくて私の目からは紳士に見えた。
「羽菜が好きだから離婚を回避したいんじゃないの? 反省して態度を改めているならいいと思うけど」
のん気な杏子の言葉に私はむっと眉をひそめた。
「杏子は騙されたことがないから楽観的に考えられるんだよ」