無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
「羽菜だってついこの前まで楽観的だったでしょ。それに男ってはっきり指摘されないと気づかないこと多いよ。心の中で不満を抱えているだけじゃだめ。ちゃんと話し合って、何が不満なのか具体的に伝えたら反省して態度を変えることって結構あるよ」
杏子はゆったりと紅茶を飲みながら私を諭すように語る。私と違って杏子は華やか恋愛遍歴の持ち主。男心については私なんかよりも遥かに理解しているはずなので彼女の助言は無視できない。
「……本当に私のことが好きなんだと思う?」
おずおずと聞くと、杏子は困ったように綺麗な眉を下げる。
「程度は分からないけど好意は持っていると思うよ。離婚したくないのは確実だと思う。でもそれより今考えないといけないのは、どうして心の声が聞こえるようになったかでしょう? 異常事態なんだから」
「たしかに。でも調べても分からないんだよね」
「ずいぶんのん気ね。聞こえすぎてうるさいとか生活に支障ないの?」
杏子が呆れたように言う。
「心の声が聞こえるのは克樹さんだけし、多分彼の目を見ているときしか聞こえないみたいなの。一緒にいる時間が短いからそれほど支障がない」
「なるほど。克樹さんは何て言ってたの?」
「話してないよ。呆れられるだけだろうし」
それにあなたの心の声が聞こえますなんて言ったら気まずくなりそうだ。
「言いなさいよ。脳の異変かもしれないんだから、克樹さんの専門分野でしょう! むしろ彼に一番初めに相談すべき。今日中に話しなよ。離婚はその問題を解決した後にゆっくり考えればいいんだから」
「……分かった」
私はしぶしぶ頷いた。かなり言いづらいが、杏子の言う通り脳の問題なら克樹さんが適任なのだ。
「絶対ね」
「帰ってきたら話してみる」
次に彼と顔を合わすのがいつになるかは未定だけれど。今日だってきっと帰ってこない。でもそれを言ったら呼び出せと言われそうな勢いなので黙っておく。
「はー、それにしてもとんでもないことになってるよね」
杏子はしみじみ言いながら、クッキーに手を伸ばす。
「お腹空いたよね。お昼食べて行かない?」
話し込んでいる内に、いつの間にか昼を過ぎていた。
「羽菜、食欲あるの?」
「あるよ。入院していたせいか、ジャンクなものとかこってりしたものが食べたい気分」
「じゃあ一緒に作ろうか」
杏子が笑いながら言う。離婚で悩んでいるくせに食欲旺盛な私がおかしいのだろう。
その後あれこれ愚痴を言いあいながら、豚骨ラーメンを作った。
杏子と話したおかげでストレス発散出来ていたみたいだ。残さず綺麗に完食した。
「ただいま」
私の予想は外れ、克樹さんは夜七時過ぎに帰宅した。
彼にしてはすごく早い帰宅だ。昨日も私の退院に付き合って長く仕事を抜けているのだけれど、仕事は大丈夫なのだろうか。
「お帰りなさい。食事は済ませてないよね?」
そう聞いてみたものの夕食は用意していない。どうせ帰ってこないだろうと思ったからだ。
退院してからまだ買い物に行っていないので冷蔵庫の食材が心もとない。
私ひとりならあるもので適当に済ませばいいんだけれど、一日働いてきた夫の食事が適当ではまずいだろう。
どうしようか困っていると、克樹さんが大きな紙袋をテーブルの上に置いた。
「病院近くの洋食屋でテイクアウトしてきた」
紙袋の中身を気にしていると、克樹さんの淡々とした声が耳に届く。彼の方に顔を向けると視線が合った。
――羽菜はまだ料理をするのは大変だろうから買ってきたが、和食の方が良かったか?
私の反応がよくなかったのか、克樹さんが困ったような声になる。
と言っても顔色は変わらず、表面上は平然としているのだけれど。
表情と心の声が違い過ぎて、同一人物とは思えない。
「羽菜?」
――やはり買い直してくるか?
黙ったままでいたせいで、克樹さんが出て行ってしまいそうになった。
「あ、なんでもない。あの私の分もついでに買ってきてくれたの?」
「ああ」
――ついでは俺の方だ。羽菜の好きな店で買ったんだからな。
「あ、ありがとう……」
なぜ私の好きな店を知っているのだろう。それにいろいろ気を遣ってくれているようだけれど、心の声が聞こえなかったらせっかくの心使いにも気づかなかっただろう無表情。
克樹さんて笑うのが苦手なのかな。それならせめて思っていることを口にすればいいのに。優しい行動をしたときはもう少し自己主張したっていいのに。
彼は私以外にもこんな態度なのかな。そうだとしたら誤解されてしまうんじゃ……。
そんなことを考えながら、手提げ袋から料理を取り出す。出来立てをテイクアウトしたようで、温め直しは必要なさそうだ。しっかりされていた蓋を外すと、部屋の中にいい匂いが漂い始めた。
ダイニングテーブルに座り食事を始める。
黙々と食べるだけでも、彼が正面に座っているだけで私はかなり緊張していた。
杏子はゆったりと紅茶を飲みながら私を諭すように語る。私と違って杏子は華やか恋愛遍歴の持ち主。男心については私なんかよりも遥かに理解しているはずなので彼女の助言は無視できない。
「……本当に私のことが好きなんだと思う?」
おずおずと聞くと、杏子は困ったように綺麗な眉を下げる。
「程度は分からないけど好意は持っていると思うよ。離婚したくないのは確実だと思う。でもそれより今考えないといけないのは、どうして心の声が聞こえるようになったかでしょう? 異常事態なんだから」
「たしかに。でも調べても分からないんだよね」
「ずいぶんのん気ね。聞こえすぎてうるさいとか生活に支障ないの?」
杏子が呆れたように言う。
「心の声が聞こえるのは克樹さんだけし、多分彼の目を見ているときしか聞こえないみたいなの。一緒にいる時間が短いからそれほど支障がない」
「なるほど。克樹さんは何て言ってたの?」
「話してないよ。呆れられるだけだろうし」
それにあなたの心の声が聞こえますなんて言ったら気まずくなりそうだ。
「言いなさいよ。脳の異変かもしれないんだから、克樹さんの専門分野でしょう! むしろ彼に一番初めに相談すべき。今日中に話しなよ。離婚はその問題を解決した後にゆっくり考えればいいんだから」
「……分かった」
私はしぶしぶ頷いた。かなり言いづらいが、杏子の言う通り脳の問題なら克樹さんが適任なのだ。
「絶対ね」
「帰ってきたら話してみる」
次に彼と顔を合わすのがいつになるかは未定だけれど。今日だってきっと帰ってこない。でもそれを言ったら呼び出せと言われそうな勢いなので黙っておく。
「はー、それにしてもとんでもないことになってるよね」
杏子はしみじみ言いながら、クッキーに手を伸ばす。
「お腹空いたよね。お昼食べて行かない?」
話し込んでいる内に、いつの間にか昼を過ぎていた。
「羽菜、食欲あるの?」
「あるよ。入院していたせいか、ジャンクなものとかこってりしたものが食べたい気分」
「じゃあ一緒に作ろうか」
杏子が笑いながら言う。離婚で悩んでいるくせに食欲旺盛な私がおかしいのだろう。
その後あれこれ愚痴を言いあいながら、豚骨ラーメンを作った。
杏子と話したおかげでストレス発散出来ていたみたいだ。残さず綺麗に完食した。
「ただいま」
私の予想は外れ、克樹さんは夜七時過ぎに帰宅した。
彼にしてはすごく早い帰宅だ。昨日も私の退院に付き合って長く仕事を抜けているのだけれど、仕事は大丈夫なのだろうか。
「お帰りなさい。食事は済ませてないよね?」
そう聞いてみたものの夕食は用意していない。どうせ帰ってこないだろうと思ったからだ。
退院してからまだ買い物に行っていないので冷蔵庫の食材が心もとない。
私ひとりならあるもので適当に済ませばいいんだけれど、一日働いてきた夫の食事が適当ではまずいだろう。
どうしようか困っていると、克樹さんが大きな紙袋をテーブルの上に置いた。
「病院近くの洋食屋でテイクアウトしてきた」
紙袋の中身を気にしていると、克樹さんの淡々とした声が耳に届く。彼の方に顔を向けると視線が合った。
――羽菜はまだ料理をするのは大変だろうから買ってきたが、和食の方が良かったか?
私の反応がよくなかったのか、克樹さんが困ったような声になる。
と言っても顔色は変わらず、表面上は平然としているのだけれど。
表情と心の声が違い過ぎて、同一人物とは思えない。
「羽菜?」
――やはり買い直してくるか?
黙ったままでいたせいで、克樹さんが出て行ってしまいそうになった。
「あ、なんでもない。あの私の分もついでに買ってきてくれたの?」
「ああ」
――ついでは俺の方だ。羽菜の好きな店で買ったんだからな。
「あ、ありがとう……」
なぜ私の好きな店を知っているのだろう。それにいろいろ気を遣ってくれているようだけれど、心の声が聞こえなかったらせっかくの心使いにも気づかなかっただろう無表情。
克樹さんて笑うのが苦手なのかな。それならせめて思っていることを口にすればいいのに。優しい行動をしたときはもう少し自己主張したっていいのに。
彼は私以外にもこんな態度なのかな。そうだとしたら誤解されてしまうんじゃ……。
そんなことを考えながら、手提げ袋から料理を取り出す。出来立てをテイクアウトしたようで、温め直しは必要なさそうだ。しっかりされていた蓋を外すと、部屋の中にいい匂いが漂い始めた。
ダイニングテーブルに座り食事を始める。
黙々と食べるだけでも、彼が正面に座っているだけで私はかなり緊張していた。