無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
『笹岡家の令嬢との結婚なら、克人とで進めるべきよ! 次男の克樹さんよりも長男で跡継ぎの克人の方が笹岡さんだって喜ぶわ。ね、克人もそれでいいわよね?』
継母は前のめりになって父に訴えながら、ちらりと義兄に視線を遣る。義兄はそれに応えるように父に訴えた。
『僕はそれで構わないよ。笹岡家の令嬢羽菜さんとは先日挨拶を交わしたけど可愛らしい人だったよ。彼女となら結婚して上手くやっていけると思う』
まるで結婚してやるんだといった上からの態度と、令嬢と既に面識がある抜け目なさに驚いたが、納得もした。
義兄は俺と比べると遥かに世渡りが上手い。社交性があり自分にとって必要と思う相手に近づくのが得意だ。笹岡家の令嬢は義兄にとって縁を持つべき相手なのだろう。結婚してもいいと思うほどに。
この縁談は無くなりそうだな。父も義兄の希望を叶えたいはずだ。
ところが父は検討する素振りもなく、『それは無理だ』と否定した。
『えっ? どうしてよ?』
継母が不満そうに顔をしかめる。
『笹岡氏からの縁談は加賀谷家ではなく克樹個人に来ているものなんだ。克人が代わるのは無理だ』
『そんな……』
継母は苛立たし気に俺にきつい視線を送ってくる。義兄も目を細めた。
『見合いは来週だ。克樹、準備をしておくように。言っておくが断るのは許されないぞ』
『はい。用件が他にないなら失礼します』
俺は他人行儀にそう言い、まだ何か言いたげな継母と義兄の視線も気づかないふりをして部屋を出た。
そのまま実家を出て一人暮らしをしているマンションに戻る。
いつも通りにシャワーを浴びて、少し休憩してからベッドに入った。
父から笹岡羽菜の身上書を渡されたが、気が重くて開く気にはならなかった。
『まさか俺が結婚することになるとはな……』
音楽すら流れていない静かな部屋で、天井を見上げながら呟いた。
こんなことが無ければ結婚することはなかっただろう。
幼い頃から不仲な両親の諍いを間近で眺めてきた。その後父は長く不倫をしていて自分には母親違いの兄までいた。母と入れ替わりに家に来た継母は、人の家庭を壊したという罪悪感は欠片もなく俺に対する嫌悪感を隠さなかった。
誠実さも他人に対する思いやりもなにもない。そこにあるのは自分の欲望だけを優先する醜い人間の姿だった。そんな環境に長年身を置いていたのだ。結婚生活にどうして希望を持てるのだろう。
自分は父のような大人にはならない。子供のころからずっとそう思っていた。
父を愚かにした恋愛というものに嫌悪感すら感じるようになっていた。
こんな俺にも近づいてくる女性はいた。中には驚くほど積極的に誘ってくる相手もいた。
だが少し話してみると、医師というステータスと加賀谷家の資産が目当てなのが透けて見えた。
やはり純粋な好意など存在しない。人は欲深い生き物なのだ。
そう改めて実感し、ますます恋愛や結婚への希望が失せっていった。嫌悪感すら感じていた。
しかし今回の縁談は病院にとってはよい話だろう。
地域の名士との縁は大きな意味を持つはずだから。
他人と同居するのは正直言って気が進まないが、余程問題がある相手でない限り耐えられると思う。実際医大を卒業するまでは実家で過ごしていたのだから、それよりはましなはずだ。
それに結婚し家庭を持てば、実家との関係に線を引くことができる。
そんなふうに俺は見合いをどちらかというと肯定していた。
ただ笹岡羽菜個人に関心も期待もなく、結局身上書は開かなかった。
どうせ来週見合いの席で会うのだ。彼女の人となりはそのときに分かるだろう。
継母は前のめりになって父に訴えながら、ちらりと義兄に視線を遣る。義兄はそれに応えるように父に訴えた。
『僕はそれで構わないよ。笹岡家の令嬢羽菜さんとは先日挨拶を交わしたけど可愛らしい人だったよ。彼女となら結婚して上手くやっていけると思う』
まるで結婚してやるんだといった上からの態度と、令嬢と既に面識がある抜け目なさに驚いたが、納得もした。
義兄は俺と比べると遥かに世渡りが上手い。社交性があり自分にとって必要と思う相手に近づくのが得意だ。笹岡家の令嬢は義兄にとって縁を持つべき相手なのだろう。結婚してもいいと思うほどに。
この縁談は無くなりそうだな。父も義兄の希望を叶えたいはずだ。
ところが父は検討する素振りもなく、『それは無理だ』と否定した。
『えっ? どうしてよ?』
継母が不満そうに顔をしかめる。
『笹岡氏からの縁談は加賀谷家ではなく克樹個人に来ているものなんだ。克人が代わるのは無理だ』
『そんな……』
継母は苛立たし気に俺にきつい視線を送ってくる。義兄も目を細めた。
『見合いは来週だ。克樹、準備をしておくように。言っておくが断るのは許されないぞ』
『はい。用件が他にないなら失礼します』
俺は他人行儀にそう言い、まだ何か言いたげな継母と義兄の視線も気づかないふりをして部屋を出た。
そのまま実家を出て一人暮らしをしているマンションに戻る。
いつも通りにシャワーを浴びて、少し休憩してからベッドに入った。
父から笹岡羽菜の身上書を渡されたが、気が重くて開く気にはならなかった。
『まさか俺が結婚することになるとはな……』
音楽すら流れていない静かな部屋で、天井を見上げながら呟いた。
こんなことが無ければ結婚することはなかっただろう。
幼い頃から不仲な両親の諍いを間近で眺めてきた。その後父は長く不倫をしていて自分には母親違いの兄までいた。母と入れ替わりに家に来た継母は、人の家庭を壊したという罪悪感は欠片もなく俺に対する嫌悪感を隠さなかった。
誠実さも他人に対する思いやりもなにもない。そこにあるのは自分の欲望だけを優先する醜い人間の姿だった。そんな環境に長年身を置いていたのだ。結婚生活にどうして希望を持てるのだろう。
自分は父のような大人にはならない。子供のころからずっとそう思っていた。
父を愚かにした恋愛というものに嫌悪感すら感じるようになっていた。
こんな俺にも近づいてくる女性はいた。中には驚くほど積極的に誘ってくる相手もいた。
だが少し話してみると、医師というステータスと加賀谷家の資産が目当てなのが透けて見えた。
やはり純粋な好意など存在しない。人は欲深い生き物なのだ。
そう改めて実感し、ますます恋愛や結婚への希望が失せっていった。嫌悪感すら感じていた。
しかし今回の縁談は病院にとってはよい話だろう。
地域の名士との縁は大きな意味を持つはずだから。
他人と同居するのは正直言って気が進まないが、余程問題がある相手でない限り耐えられると思う。実際医大を卒業するまでは実家で過ごしていたのだから、それよりはましなはずだ。
それに結婚し家庭を持てば、実家との関係に線を引くことができる。
そんなふうに俺は見合いをどちらかというと肯定していた。
ただ笹岡羽菜個人に関心も期待もなく、結局身上書は開かなかった。
どうせ来週見合いの席で会うのだ。彼女の人となりはそのときに分かるだろう。