無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!

 当日。見合いは老舗料亭で行われた。両家の家長が同席する想像していた以上にかしこまった席でのことだった。

 直前まで不満を零していた継母も、作った笑みを浮かべて同席している。
笹岡家は父娘のふたりだけだった。

 母親は二十年近く前に病気で亡くなったとのことだ。笹岡氏が加賀谷総合病院への支援に力を入れるようになったのは、妻が亡くなったことが関係しているらしい。
 
縁談相手の羽菜の第一印象は、ひとことで言うとまさに深窓の令嬢だった。
 小柄で華奢。小さな顔は日焼けを知らないよう白く、大きな目が印象的だった。二十六歳とのことだが、大学生と言っても違和感がない初々しくてとても可愛らしい人だった。
 しとやかな雰囲気で目が合うと優しく微笑む姿は、彼女がとても大切に育てられたのだと想像できる。
 
 彼女が俺との結婚についてどう考えているかは分からなかった。親に言われて仕方なくやって来たのか、自分の意思で来たのか。
 分からないが、彼女となら結婚できると思った。
 とくに好感を持った訳ではないが、不快感もないからだ。
 
 とはいえ普段から無口な俺は気が利いた言葉ひとつ言えず、まったく手ごたえがない見合いだった。
 継母は失敗に終わると思っていたのだろう。機嫌が良さそうな目で俺を馬鹿にするように眺めていた。
 しかし笹岡家からは前向きな返事が来て、俺と羽菜は結婚に向けて交際することになった。と言っても一般的な婚約期間とは違っていたと思う。
 
 病院での業務がますます多忙になっていた俺は彼女にろくに連絡しなかった。
 礼儀として、加賀谷家としても重要な結婚を壊さないように定期的に彼女の機嫌伺が必要なのは分かっていた。しかしなかなか連絡出来ずにいたが、羽菜の方からも連絡はなかった。
 
 おそらく彼女も親に言われて結婚するのだろう。
 結婚をビジネスとして捉えている。ならば必要以上に交流する必要はない。
 そう認識するとますます彼女との接点が減っていった。
 
 結婚式での羽菜は客観的に見て美しかった。白無垢姿が似合っていたし、披露宴では友人に囲まれ楽しそうに微笑んでいた。
 けれど俺に向ける眼差しはどこかぎこちない。やはり彼女はこの結婚が不本意なのだろう。面白みがない俺が相手で落胆しているというのもあるかもしれない。
 
 挙式後は新居に帰り結婚生活がスタートした。俺は彼女と体の関係を持つつもりはなかったが、初日ということもあり気まずさが漂っている。そんなとき病院からの担当患者が急変したと呼び出しがかかったため、彼女を残して家を出てそのまま翌日の夜まで帰宅しなかった。
 
 罪悪感はなく、むしろ家を出る口実が出来てよかった。
 羽菜からも何も言って来なかったから、きっと彼女もほっとしたのだと思った。
 これが俺たち夫婦の正しい距離感なのだ。

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