無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
見守っていると、先ほどすれ違った若い女性が克樹さんに声をかけた。
私は思わず眉をひそめた。
決して嫉妬したわけではない。きっと克樹さんはあの女性を冷たくあしらうだろう。最悪の場合は無視するかもしれないので、気を悪くさせてしまうんじゃないかって心配なだけだ。
ところが克樹さんはその場に立ち止まり、更に笑みを浮かべて女性の相手をし始めた。
会話をしていた時間はせいぜい一分程度だけれど私は非常に驚いた。
とても楽しそうな笑顔だった……あんなふうに気を遣って社交することができたんだ……。
従弟の奥さんの関係者に愛想よくするのは当然のことだけれど、一年間克樹さんに冷たくされ続けた私にとっては衝撃的な出来事だ。
だって、あんな風に優しく笑えるのなら、どうして私には一切の優しさをくれなかったのか。どうしてもそう思ってしまう。
もやもやした思いが込み上げて気分が悪い。そんな私の気持ちを知るはずもない克樹さんが綺麗に料理が盛り付けられた皿を手に戻ってきた。
「待たせた」
椅子の隣に設置してある小さなテーブルの上に皿を置いてから私の顔を見た克樹さんが、僅かに表情を変えた。
「俺がいない間に、何かあったのか?」
――誰も近づいていなかったはずだが。
「えっ、見てたの?」
驚いてつい心の声の方に返事をしてしまった。
克樹さんが怪訝そうに瞬きをする。
「あ……ええと、何もなかったよ。どうしてそう思ったの?」
余計なことは聞かれないように、質問返しをした。
「……なんでもないならいいんだ」
――怖い顔をしていたとは言いづらいな
克樹さんは誤魔化すように言ったが、今の私には筒抜けだ。
それにしても、克樹さんに怖いと言われるなんて私はどんな顔をしていたと言うの?
不満な出来事があったからってお祝いの場でそんな顔をしていたなんて、自己嫌悪になりそう。
私も克樹さんも無言になったため、気まずい空気が漂う。
言葉を探している様子の彼から目を背けて、私は取って来てもらった料理を食べることにした。
夫の親族の結婚式で粗相をしてはいけないと気を張り食事にも手をつけていなかったから、空腹だったのだ。
幸い克樹さんは、大きなプレートに充分な量を盛り付けてくれている。
どれから食べようかな……あれ?
よく見たら私が苦手なものが入っていない。
私は幼い頃から玉ねぎが苦手だった。好き嫌いというより口に入れると気分が悪くなってしまう。ネギやニンニクも同じような感じなので、それらに含まれている硫化アリルが合わないのだと思う。
しかし玉ねぎもにんにくも様々な料理に使われているから完全に避けるのは無理だし、私も無理すれば食べられない訳じゃない。だから多くの人の目がある場所や避けたら失礼になりそうな状況では、我慢して食べるようにしていた。