無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
 そう分かっていても簡単には納得できない。

「信じられない」
「信じてもらえるように努力する」

 克樹さんは頑なになっている私にうんざりする様子もなく、真面目に返事をする。

「……もう遅いよ」
「だからと言って諦める訳にはいかない」
「そんなこと言っても」
「羽菜に許してもらえるよう、もっとできることがあるはずだと信じている」

 どんなに突っぱねようとしても克樹さんは頑固だった。
 その姿が、少しだけ以前の自分と重なってみえた。
 一向によくならない結婚生活に悩みながらも、もっと頑張れば上手くいくはずだと信じていた頃の私に――。
 私にとって彼は、何一つ分かり合えない人だと思っていたはずなのに。

「はあ……」

 私は深いため息を吐いた。克樹さんの表情が悲しそうな影が差す。

「……分かった。どうせ克樹さんの協力がないなら離婚はできないんだし、それなら仲良く暮らした方がいいし、許すとは言えないけどいつまでも恨み言を言うのはやめる」

 それに本音を言うともうそんなに怒っていない。
 彼は私を蔑ろにしていたけれど、悪意がなかったというのは分かったから。

 詳細は不明だけれど、克樹さんが無口で人間味が感じられない人になったのは家庭環境にも原因がありそうだし。
 結構単純な私は、元々怒りを継続することができないタイプだというのもある。
 だからといって蟠りが完全に無くなったわけではないので「はい、仲直り」とまでは言えないのだけれど。

「羽菜……ありがとう」

 克樹さんの表情が一気に明るくなった。
 ――羽菜が俺の言葉を受け入れてくれた。よかった……。
 ――勝手な俺を許してくれるなんて、彼女は寛容で優しくて素晴らしい人だ。以前看病しいてくれたときも……。

 冷たさを感じるほどに整った美貌の裏で、かなりいろいろ考えているのだけれど、褒められすぎでこっちが恥ずかしくなってしまう。それにしても看病って何の話だろう。

 ――いつかもう一度家族だと言ってもらえるように努力しよう。

 克樹さんは何かの決意を固めた様子だ。
 家族か……私はずっと彼のことを家族だと信じていたけれど。一方的だった関係がこれから変わっていくのかな。
 いろいろ問題はあるけれど、私たち夫婦の関係が変化したのを実感したのだった。
 
 
 
< 47 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop