無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
「羽菜さんは聞いてない? 本当は私が克樹と結婚する予定だったのだけど」
「えっ?!」

 そんな話聞いたことがないのだけれど。

「知らないみたいね」

 日高先生が得意げに口角を上げる。

「私の父が加賀谷グループのクリニックのひとつで院長をしていてね。兼任で理事も務めているの。加賀谷家とは家族ぐるみの付き合いだから自然と結婚の話になったわ」
「政略結婚の相手が日高先生から私に代わったということなんですね」

 政略の部分に力を込めた。私の嫌みに気づいたのか、日高先生の目つきが険しくなる。

「羽菜さんと違って私の場合は政略ではなかったけどね。幼馴染だもの。当然でしょう」

 たしかに。幼馴染というだけで強い絆を感じて、お見合いで出会った私は圧倒的に不利だと感じる。 
 でも今は私が妻。克樹さんは私を選んでくれているのだから、日高先生の嫌みに一喜一憂する必要はない。そう自分に言い聞かせる。

「克樹のことは私の方が知ってるわ。初めて付き合ったのは私だし」

 幼馴染のうえに初彼女だったの?
 驚く私に日高先生が留めを刺す。

「だから分かるの。克樹に羽菜さんは似合わないって」
「……そうですか。でもそれは克樹さんと私で決めることですから、日高先生はお気になさらず」

 付き合いが長いからといってマウントを取り無神経な発言をする日高さんに、めちゃくちゃ腹が立っている。でもそれを必死に抑えて私は笑顔をつくった。
 ここでヒステリーを起こしたら私の負け。きっと彼女は私が醜態をさらすのを待っているのだ。だから冷静に堂々と振る舞わなくては。
 思った通り日高先生はつまらなそうな表情になった。この隙に立ち去ろう。
 これ以上彼女と一緒に居たらストレスで頭が痛くなりそう。
 でも最後にひとつだけ聞いておきたい。

「日高先生は私と克樹さんの離婚を望んでいるように見えますが、どうしてですか?」

 緊張しながら返事を待つ。
 日高先生は私から目をそらさず口を開いた。

「克樹とやり直したいと思ってるからよ。彼が結婚して気づいたの。私にはやっぱり彼しかいないって」

 そう言う日高先生の顔からは私への敵対心は消えていて、ただ真摯に望みを訴えているように見えた。




 日高先生の言ったことは本当なのだろうか。
 冷静になってから考えても分からない。
 克樹さんと過去の恋愛話なんて聞いたことがないのだから。

 心の声でも彼女のことが出てきたことはないし、幼馴染以上の感情を持っているとは思っていなかったのだけれど。
 お互い大人だから、過去に恋人がいるのは自然で問題にはならない。
 克樹さんは無口で取っ付き辛いけれど、あの容姿で医師という立場なのだから、女性に困ってはいなかったと思うから。
でも日高先生との関係はかなりショックだ。
 彼女の口ぶりでは、とても終わったこととは思えなかったし。


 やっぱり終った関係と割り切れなくて、その夜、ソファで寛いでいる克樹さんに直接聞いてみることにした。

「克樹さん、日高先生とふたりでいるところを見かけたけど、よく話すの?」

 遠まわしな言い方をしてしまうのは、触れてはいけないところに触れるときのような罪悪感があるから。私が意気地なしだからだ。
 克樹さんは私の質問に不思議そうな表情になった。
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