無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
なんとか羽菜を宥めていたが羽菜は止まらず、ついには義兄にとの関係にまで言及しはじめた。
「距離があって気まずいならもう少し克人さんと交流を持ったらどうかな? 克樹さんから誘ったりするのが難しいなら私が伝言役をしてもいいし。克人さんとは仕事中にときどき顔を合わすんだけど、普通に話すことができるから。この前も休憩のときに一緒になって……」
一緒に休憩? 羽菜が既に義兄と交流を持っていることに衝撃を受けた。しかも伝言役なんて更に接点が増えるようなことはさせられない。
「必要ない!」
焦るあまり大きな声が出てしまった。驚いたのか羽菜の丸い目が更に大きく開く。
彼女の顔は強張っていてショックを与えてしまったのが明らかだった。
「すまない」
すぐに謝罪をしたが、それ以降羽菜は義兄の話はしなくなり態度も余所余所しいものになった。
きっと俺の態度が理解できず失望し腹を立てているのだろう。
冷静になって考えれば当然だ。羽菜のように普通の家庭で育った女性が、義兄との不仲を疑問に思うのは自然な反応だ。
羽菜の父親は厳しいながらも娘を大切に想う気持ちが、俺でも気づくくらい言葉の端々に滲みでていた。
『至らないところもありますが心根は優しい娘です。どうぞよろしくお願いします』
息子と同年代の俺に対してそう言って頭を下げてくれた。羽菜は愛されて育った人だ。
俺は自分の家族の問題を彼女に話していない。
聞いていて楽しいような話ではないというのもあるが、自分が家庭内で長年疎外されてきたという事実を、彼女に知られたくなかったのだ。
くだらない見栄だろうが、俺にとっては重要なことだった。
でも羽菜はそんな俺の気持ちを知らないのだから、頑なに兄を避けている頑固で偏屈な男に映るだろう。
実際院内でも評判もそのようなもので、 寛容でできた兄に気難しい弟という印象が定まっている。
悪い評判の男の妻である羽菜にとっては居心地が悪く感じるだろう。
それでも彼女は文句を言う訳ではなく、俺のフォローをしようと義兄との仲介を買って出てくれたのに頭ごなしに拒否してしまった。怒って当然だ。
築き始めていた羽菜との夫婦としての絆が崩れていくような気がする。胸の内が不安で騒めいた。
一刻も早く謝罪しなくては。くだらない見栄は捨てて全てを彼女に打ち明けよう。
片手間で話せることではないのでタイミングを窺っていたが、なかなか夫婦の時間を取ることができない。
その日も屋根から転落して頭部を強打した患者が運ばれてきて緊急オペになり帰宅することができなかった。
羽菜にその旨のメッセージを送ったが、了承の返事は彼女にしては素っ気ないものだった。
おそらく俺に対する不満が表れているのだろう。
早く彼女と話し合いの時間を持ちたい。そんなときの出来事だった。
焦燥感を抱きながら日中に一時帰宅してシャワーと着替えをして病院に戻ろうとした途中に羽菜と義兄がふたりでいるところを偶然見かけたのだ。
ふたりが居たのは、以前に羽菜から離婚を告げられた喫茶店だった。窓際のふたり用のテーブルに向い合せに座り深刻そうな表情で話し込んでいる。
心臓がどくんと跳ねた。
昼食を一緒にするだけなら病院のカフェテリアでもいい。他にももっと近くに職員たちが利用する飲食店がある。
「距離があって気まずいならもう少し克人さんと交流を持ったらどうかな? 克樹さんから誘ったりするのが難しいなら私が伝言役をしてもいいし。克人さんとは仕事中にときどき顔を合わすんだけど、普通に話すことができるから。この前も休憩のときに一緒になって……」
一緒に休憩? 羽菜が既に義兄と交流を持っていることに衝撃を受けた。しかも伝言役なんて更に接点が増えるようなことはさせられない。
「必要ない!」
焦るあまり大きな声が出てしまった。驚いたのか羽菜の丸い目が更に大きく開く。
彼女の顔は強張っていてショックを与えてしまったのが明らかだった。
「すまない」
すぐに謝罪をしたが、それ以降羽菜は義兄の話はしなくなり態度も余所余所しいものになった。
きっと俺の態度が理解できず失望し腹を立てているのだろう。
冷静になって考えれば当然だ。羽菜のように普通の家庭で育った女性が、義兄との不仲を疑問に思うのは自然な反応だ。
羽菜の父親は厳しいながらも娘を大切に想う気持ちが、俺でも気づくくらい言葉の端々に滲みでていた。
『至らないところもありますが心根は優しい娘です。どうぞよろしくお願いします』
息子と同年代の俺に対してそう言って頭を下げてくれた。羽菜は愛されて育った人だ。
俺は自分の家族の問題を彼女に話していない。
聞いていて楽しいような話ではないというのもあるが、自分が家庭内で長年疎外されてきたという事実を、彼女に知られたくなかったのだ。
くだらない見栄だろうが、俺にとっては重要なことだった。
でも羽菜はそんな俺の気持ちを知らないのだから、頑なに兄を避けている頑固で偏屈な男に映るだろう。
実際院内でも評判もそのようなもので、 寛容でできた兄に気難しい弟という印象が定まっている。
悪い評判の男の妻である羽菜にとっては居心地が悪く感じるだろう。
それでも彼女は文句を言う訳ではなく、俺のフォローをしようと義兄との仲介を買って出てくれたのに頭ごなしに拒否してしまった。怒って当然だ。
築き始めていた羽菜との夫婦としての絆が崩れていくような気がする。胸の内が不安で騒めいた。
一刻も早く謝罪しなくては。くだらない見栄は捨てて全てを彼女に打ち明けよう。
片手間で話せることではないのでタイミングを窺っていたが、なかなか夫婦の時間を取ることができない。
その日も屋根から転落して頭部を強打した患者が運ばれてきて緊急オペになり帰宅することができなかった。
羽菜にその旨のメッセージを送ったが、了承の返事は彼女にしては素っ気ないものだった。
おそらく俺に対する不満が表れているのだろう。
早く彼女と話し合いの時間を持ちたい。そんなときの出来事だった。
焦燥感を抱きながら日中に一時帰宅してシャワーと着替えをして病院に戻ろうとした途中に羽菜と義兄がふたりでいるところを偶然見かけたのだ。
ふたりが居たのは、以前に羽菜から離婚を告げられた喫茶店だった。窓際のふたり用のテーブルに向い合せに座り深刻そうな表情で話し込んでいる。
心臓がどくんと跳ねた。
昼食を一緒にするだけなら病院のカフェテリアでもいい。他にももっと近くに職員たちが利用する飲食店がある。