無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
第八章 夫婦の絆
克樹さんと日高先生が抱き合っているのを見たとき、この世の終わりかと思うくらいショックを受けた。
彼に離婚を突き付けた私はもういない。
克樹さんは私よりも日高先生を選ぶのかな。別れようと言われたらどうしようと不安が胸中を渦巻いて、冷静でいられなくなった。
どん底まで落ち込んで、それでも私は克樹さんと別れたくないと思った。
これからも彼の妻でいたい。
帰ってきた克樹さんにやっぱり離婚を考えようと言われても突っぱねて、なんとかやり直せるように訴えようと心を奮い立たせていた。
泣くのは出来ることを全てやってからにしよう。
それに抱き合うような特殊な事情があるのかもしれないし。僅かな希望でもよい方に考えたい。
意識してよい方に考えながら、克樹さんの好物のクリームシチューを作り待つ。
それでもいざ顔を合わすと緊張と不安でいっぱいになり、上手く笑うことが出来なかった。
克樹さんもどことなく気まずい様子で、頑張ろうとしていた心がくじけそうになる。
心の声が聞こえなくなった今、克樹さんの気持ちが分からない。
それは当たり前のことなのに、私はいつの間にか彼の心を読むのが当たり前になっていた。不可解な現象に戸惑いながらもいつまでも彼に打ち明けず都合よく利用して、卑怯だった。
これからはそんな力に頼らずに、克樹さんと向き合っていかなくては。
克樹さんが話し合いをしたいと言い出したのは、そう決意をしたときだった。
どくんと心臓が跳ねる。
もしかしたら日高先生との関係について言われるのかもしれない。
そんなのは嫌だ。まだ心の準備も彼の気持ちを帰るための努力もなにもできていないのに。
「分かった。でも紫前さんのオペが終わってからにしよう。その方が落ち着いて話せるから」
だから私は患者を言い訳に、先延ばしにしてしまった。
意気地がない自分が情けなくなる。
そんな私に克樹さんが思いがけないことを言った。
「だがこれだけは先に言わせてくれ。この前はきつい言い方をして悪かった。俺の家族の関係を心配してくれたのに事情も話さずに否定した」
え? どうして克樹さんが謝るの? 私を怒っていた訳じゃないの?
戸惑う私に彼が続ける。
「羽菜に対して不満を持ったわけじゃないんだ。羽菜にみっともない面を見せたくなかった。見栄を張ってしまったんだ。本当に悪かった」
え……本当に?
私のことを嫌いになったんじゃなかったの?
安堵と喜びが体中を巡っていく。
よかった、本当によかった。
日高先生とのことは、まだよく分かっていない。
それでもさっきまでのような不安はもうなくなっていた。
克樹さんの目を見ていたら分かったのだ。
彼は私を大切にしてくれている。裏切ったりしない。
だから私も克樹さんを信じて、今はオペが上手くいくように彼を支えよう。
たくさんの想いを込めてつくったクリームシチューを、克樹さんは喜んで食べてくれた。
「羽菜の料理は本当に美味しいな」
幸せそうに微笑む彼を見ていると幸せが込み上げた。
翌朝。克樹さんと仲直りができた私は、張りきって家を出た。
今日も一日頑張ろう。単純だけど昨日よりもずっとやる気に溢れている。
彼に離婚を突き付けた私はもういない。
克樹さんは私よりも日高先生を選ぶのかな。別れようと言われたらどうしようと不安が胸中を渦巻いて、冷静でいられなくなった。
どん底まで落ち込んで、それでも私は克樹さんと別れたくないと思った。
これからも彼の妻でいたい。
帰ってきた克樹さんにやっぱり離婚を考えようと言われても突っぱねて、なんとかやり直せるように訴えようと心を奮い立たせていた。
泣くのは出来ることを全てやってからにしよう。
それに抱き合うような特殊な事情があるのかもしれないし。僅かな希望でもよい方に考えたい。
意識してよい方に考えながら、克樹さんの好物のクリームシチューを作り待つ。
それでもいざ顔を合わすと緊張と不安でいっぱいになり、上手く笑うことが出来なかった。
克樹さんもどことなく気まずい様子で、頑張ろうとしていた心がくじけそうになる。
心の声が聞こえなくなった今、克樹さんの気持ちが分からない。
それは当たり前のことなのに、私はいつの間にか彼の心を読むのが当たり前になっていた。不可解な現象に戸惑いながらもいつまでも彼に打ち明けず都合よく利用して、卑怯だった。
これからはそんな力に頼らずに、克樹さんと向き合っていかなくては。
克樹さんが話し合いをしたいと言い出したのは、そう決意をしたときだった。
どくんと心臓が跳ねる。
もしかしたら日高先生との関係について言われるのかもしれない。
そんなのは嫌だ。まだ心の準備も彼の気持ちを帰るための努力もなにもできていないのに。
「分かった。でも紫前さんのオペが終わってからにしよう。その方が落ち着いて話せるから」
だから私は患者を言い訳に、先延ばしにしてしまった。
意気地がない自分が情けなくなる。
そんな私に克樹さんが思いがけないことを言った。
「だがこれだけは先に言わせてくれ。この前はきつい言い方をして悪かった。俺の家族の関係を心配してくれたのに事情も話さずに否定した」
え? どうして克樹さんが謝るの? 私を怒っていた訳じゃないの?
戸惑う私に彼が続ける。
「羽菜に対して不満を持ったわけじゃないんだ。羽菜にみっともない面を見せたくなかった。見栄を張ってしまったんだ。本当に悪かった」
え……本当に?
私のことを嫌いになったんじゃなかったの?
安堵と喜びが体中を巡っていく。
よかった、本当によかった。
日高先生とのことは、まだよく分かっていない。
それでもさっきまでのような不安はもうなくなっていた。
克樹さんの目を見ていたら分かったのだ。
彼は私を大切にしてくれている。裏切ったりしない。
だから私も克樹さんを信じて、今はオペが上手くいくように彼を支えよう。
たくさんの想いを込めてつくったクリームシチューを、克樹さんは喜んで食べてくれた。
「羽菜の料理は本当に美味しいな」
幸せそうに微笑む彼を見ていると幸せが込み上げた。
翌朝。克樹さんと仲直りができた私は、張りきって家を出た。
今日も一日頑張ろう。単純だけど昨日よりもずっとやる気に溢れている。