無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
手術当日の朝、五時。
私は克樹さんを緊張感でいっぱいになりながら見送った。
昨夜は温かくし充分に睡眠を取っているし、食事も栄養に気を遣い克樹さんはしっかり食べてくれた。コンディションは万全のはず。
それでもこれから十時間に及ぶ手術をするのだから、心配せずにはいられない。
「克樹さん、頑張ってね。成功を祈ってる」
「ああ。最善を尽くよ。次に羽菜に会えるのは明日の朝だな」
克樹さんが優しく笑った。表向き緊張はないようだ。
彼は私の頬にそっと触れると、「行ってきます」と言い出て行った。
私は落ち着かない気持ちで部屋の片づけをしてから、いつもより早めに家を出てた。
今日、予定では紫前さんが八時三十分に手術室に入り麻酔導入を行う。その後は克樹さんの出番になる。
終了予定時間は午後七時。ただオペの時間は病状によってかなり前後するから、それより前に終わる可能性もあるし、大幅に遅れる場合もある。
十時間もの間ずっと神経を張り巡らせて命を救う為に勤めるのはどれほど大変なことなのか。
日頃から体力づくりを心掛けたり、最新の医学書を読み込み努力している彼の姿を思い出し、尊敬の気持ちが込み上げる。
「羽菜さん、記者会見なんだけど、追加で申し込みがあって……」
私たち事務局も忙しい。外部からの要望が多く予定を変更して記者会見をすることになったため、その対応があるからだ。
企画課長が進行を担当しているのだけれど、私は補佐を任せられたので次々に質問がやってくる。
「十分なスペースがあるから中に入ることは可能ですけど、追加の質問は受け付けられないと思います」
「分かった。そう返事をしておくわ」
中村さんが積極的にフォローしてくれるから助かっているけれど、朝から慌ただしくて疲弊する。でも克樹さんはもっと責任重大で大変なのだから私も頑張らないと。
あっと言う間に午前中が終わりお昼になった。
カフェテリアに行く時間も惜しいので、旧館近くの売店で買ったパンを自席で食べる。
「オペは順調みたいね」
私と同様席で食事中の中村さんが言った。
私たちはオペを見学することはできないけれど、経過の報告は入ってくる。
「報告では予定よりも早く終わりそうですね。でも彼がオペは最後まで油断できないと言っていました」
「うん。人間の脳を手術しているんだもの。ほんのわずかな油断が命取りになるんだろうね。そんな緊張に耐えながら長時間のオペをしているドクターたちには頭が下がる。それに比べて内科部長はずるいよね。まるで自分の手柄のように記者会見をするなんて」
中村さんが不服そうに顔を曇らせる。
「そうですね……」
私も中村さんと同じ不満をもっている。
記者会見が決まったとき、克人さんが責任者になったから仕方ないかもしれないけれど、克樹さんの努力を横取りされたような気持ちになる。