無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
 私は戸惑いながら理由を問う。

「俺は今のまま君と夫婦でいたいんだ」

 だからそれはなんでですか?って聞いているんだけど……。

 だって私のことが気に入らないんでしょう? 全然帰宅しないし、たまに帰ってきたときも私に触れないどころか近づかないのはそのせいでしょう?

 だから私たち夫婦は未だにキスすらしたことがなく清い関係のままなのに。

 彼が妻を必要としているのだとしても相手は私ではなくてもいいはず。こんなふうにうるさく文句を言う私よりも、割り切った女性の方がいいくらいだ。それなのにどうして……。

 考え込んでいた私は、浮かんだ考えにはっとした。

 もしかして……面倒な離婚をするよりは、現状維持の方がましだと思ってる?

 時間と労力を割いて離婚をしてから新しい妻を探すくらいなら、今のままの方が彼にとっては楽だってこと?

 もともと仮面夫婦に悩んでいるのは私だけで、克樹さんにとってはダメージがないのだから。

 私は内心頭を抱えた。

 そんな……。彼の協力を得られなければ円満な離婚は無理なのに。

 かといって黙って家を出て行方をくらますなんて無責任な真似は私にはできないし……だめだ、作戦変更するしかない!

 私はカタンと椅子を鳴らして席を立った。

「ごめんなさい。今日はここまでにしましょう。離婚の話し合いは日を改めさせてください」

 ひとりでゆっくり今後の方針を考えなくては。

 私は克樹さんの返事を待たずに花和みを出て、雨に濡れたアスファルトの道を足早に進む。

 気合を入れて臨んだ話し合いは、予想と全然違う結果になってしまった。

 まさか離婚を面倒がるとは。
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