成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
職権乱用?
「うぅ……。頭痛い……」
真理子はこめかみに手を当てながら、じりじりと照り返すアスファルトを、のろのろと会社に向かって歩いていた。
秘密を知ってしまった真理子は、成瀬の策略にはまり、まんまと家政婦の契約を結んでしまった。
『俺の事は、第一家政婦だと思ってくれ』
にんまりとしながらそう言った、成瀬の顔を思い出す。
「第一家政婦って……秘書じゃあるまいし。ばっかじゃないの!」
そう悪態をつきつつも、会社で見せる顔とは180度違う成瀬の姿に、心の底でときめいていたのは事実。
「くぅー。イケメンってずるい。ズルすぎる……。私のバカバカバカ」
真理子は思わず自分の頭をぽかぽかと叩く。
「にしても、性格変わりすぎでしょ……」
会社で見せる成瀬の姿は、紳士的で近寄りがたい“クール王子”。
一方“家政夫の成瀬さん”の姿は、どう考えても……強引で、自信家で、俺様……!?
「うーむ。同一人物だとは思えない……。でも、何で家政婦なんてしてるんだろう?」
あの部屋にいた女の子は、名前を“乃菜”と言い、父親との二人暮らしだそうだ。
父親の仕事が多忙で、成瀬が家政婦業を請け負ってサポートしているようだが、父親の詳細は教えてもらえなかった。
「そういえば、『次の予定はまた会社で』って言ってたけど……普段、会わないじゃない。どうすんのよ」
真理子がデスクに向かってぼんやりと歩いていると、卓也が駆け寄ってくるのが見えた。
「真理子さん! 廊下の掲示って見ました?」
「掲示? 見てないけど……?」
首を傾げる真理子の腕をつかみ、卓也はそのまま廊下へと出ていく。
「俺ら二人共、新チームの仕事に当たることになったんですよ」
「新チーム? なにそれ……」
「オンラインショップの立ち上げですよ。しかもチームリーダーは成瀬課長」
卓也は人差し指をぴんと天井に向けた。
「は!? 成瀬課長!?」
真理子は叫び声をあげると、慌てて人だかりができている掲示板の前に小走りで近づく。
卓也に肩を押されながら、前に出ると掲示の内容を覗き込んだ。
“自社オンラインショップ立ち上げに伴い、下記の社員をチームメンバーとして招集する。詳細については社内メールを確認すること”
「社長直々の指示らしくって、部署を越えてのチーム編成らしいですよ。やっぱ、うちの人事部は意外と見てるって話、本当だったんですねぇ」
卓也は、チームメンバーに入ったことに上機嫌な様子だ。
他の社員とともに、楽しそうにフロアに戻っていった。
真理子は人がいなくなった掲示板の前で、もう一度文字を目で追った。
チームリーダーの成瀬の他に、真理子と卓也、そして通販部や販売管理部から数名の名前があがっている。
確かにこれなら、成瀬と社内で話す機会も増えるだろう。
「ってか。完全に、職権乱用じゃない」
そう小さくつぶやいた時、隣に人の気配を感じて真理子はビクッと肩を震わせた。
「な、成瀬課長……?」
静かに立つ成瀬の姿に、真理子は思わず後ずさりする。
「職権乱用? そうでもないですよ。あなたの事は、ちゃんと評価してますから。“真理子さん”」
成瀬は眼鏡をくっと押さえると、ほんの少しだけ口元を緩ませ、何事もなかったかのようにその場を後にした。
――きぃぃー。やっぱりずるい!
真理子は、赤くなった頬をパンパンと両手でたたくと、肩を怒らせながらフロアに戻って行った。
真理子はこめかみに手を当てながら、じりじりと照り返すアスファルトを、のろのろと会社に向かって歩いていた。
秘密を知ってしまった真理子は、成瀬の策略にはまり、まんまと家政婦の契約を結んでしまった。
『俺の事は、第一家政婦だと思ってくれ』
にんまりとしながらそう言った、成瀬の顔を思い出す。
「第一家政婦って……秘書じゃあるまいし。ばっかじゃないの!」
そう悪態をつきつつも、会社で見せる顔とは180度違う成瀬の姿に、心の底でときめいていたのは事実。
「くぅー。イケメンってずるい。ズルすぎる……。私のバカバカバカ」
真理子は思わず自分の頭をぽかぽかと叩く。
「にしても、性格変わりすぎでしょ……」
会社で見せる成瀬の姿は、紳士的で近寄りがたい“クール王子”。
一方“家政夫の成瀬さん”の姿は、どう考えても……強引で、自信家で、俺様……!?
「うーむ。同一人物だとは思えない……。でも、何で家政婦なんてしてるんだろう?」
あの部屋にいた女の子は、名前を“乃菜”と言い、父親との二人暮らしだそうだ。
父親の仕事が多忙で、成瀬が家政婦業を請け負ってサポートしているようだが、父親の詳細は教えてもらえなかった。
「そういえば、『次の予定はまた会社で』って言ってたけど……普段、会わないじゃない。どうすんのよ」
真理子がデスクに向かってぼんやりと歩いていると、卓也が駆け寄ってくるのが見えた。
「真理子さん! 廊下の掲示って見ました?」
「掲示? 見てないけど……?」
首を傾げる真理子の腕をつかみ、卓也はそのまま廊下へと出ていく。
「俺ら二人共、新チームの仕事に当たることになったんですよ」
「新チーム? なにそれ……」
「オンラインショップの立ち上げですよ。しかもチームリーダーは成瀬課長」
卓也は人差し指をぴんと天井に向けた。
「は!? 成瀬課長!?」
真理子は叫び声をあげると、慌てて人だかりができている掲示板の前に小走りで近づく。
卓也に肩を押されながら、前に出ると掲示の内容を覗き込んだ。
“自社オンラインショップ立ち上げに伴い、下記の社員をチームメンバーとして招集する。詳細については社内メールを確認すること”
「社長直々の指示らしくって、部署を越えてのチーム編成らしいですよ。やっぱ、うちの人事部は意外と見てるって話、本当だったんですねぇ」
卓也は、チームメンバーに入ったことに上機嫌な様子だ。
他の社員とともに、楽しそうにフロアに戻っていった。
真理子は人がいなくなった掲示板の前で、もう一度文字を目で追った。
チームリーダーの成瀬の他に、真理子と卓也、そして通販部や販売管理部から数名の名前があがっている。
確かにこれなら、成瀬と社内で話す機会も増えるだろう。
「ってか。完全に、職権乱用じゃない」
そう小さくつぶやいた時、隣に人の気配を感じて真理子はビクッと肩を震わせた。
「な、成瀬課長……?」
静かに立つ成瀬の姿に、真理子は思わず後ずさりする。
「職権乱用? そうでもないですよ。あなたの事は、ちゃんと評価してますから。“真理子さん”」
成瀬は眼鏡をくっと押さえると、ほんの少しだけ口元を緩ませ、何事もなかったかのようにその場を後にした。
――きぃぃー。やっぱりずるい!
真理子は、赤くなった頬をパンパンと両手でたたくと、肩を怒らせながらフロアに戻って行った。