成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
謎のイケメン
「デザイン会社から、あがってきた案がこの三パターンで……」
真理子は、打ち合わせスペースで卓也の声を聞きながら、同じように耳を傾ける成瀬の横顔をチラッとうかがった。
ここ数日は手が足りているからと、家政婦業はお休みになっている。
――乃菜ちゃんのパパが、帰って来てるってことかな。
真理子はそんなことを考えながら、もう一度そっと成瀬の横顔を盗み見る。
いつも通り整った成瀬の顔の、顎先のラインから唇に目線を移し、ドキッとして目を伏せた。
初めて家政婦の仕事をして以降、真理子は定期的に家政婦として乃菜のマンションに通っている。
今では成瀬が残業で早くに帰れない日は、真理子が乃菜のお迎えに行き、夕飯の準備もしていた。
相変わらず乃菜の父親に会うことはなく、自然と成瀬と乃菜と真理子の三人で食卓を囲むことが多くなった。
――結婚って、こんな感じなのかな。
まるで家族ごっこの様な生活に、真理子は時々勘違いしてしまいそうになる。
『もっと、成瀬課長の事を知りたい』
真理子の欲求は日に日に増すばかりで、成瀬の側にいるだけでドキドキと心拍数が上がることも度々だった。
だから本心を言えば、真理子も泊まり込みの家政婦でいいと思っていた。
でも最近は、ある程度の時間になると「明日も早いから」と成瀬に帰される。
だから、真理子がマンションに泊まったのは、あの一度きりだった。
――私が意識してるの、気がついてるのかなぁ。
真理子は小さくため息をつく。
――私ってば、ほんっとうに恋愛音痴すぎ。成瀬課長の行動は全部、私が家政婦のパートナーだからで、きっと深い意味はないんだよね……。
そう思いながらも、真理子は鼻先にかかる成瀬の吐息を思い出し、ついつい赤面する。
真理子は頬を両手で押さえながら、そっと顔を上げた。
成瀬はというと、会社用の眼鏡をかけた“クール王子”の顔で、淡々と卓也の話に頷いている。
――とにかく毎回、成瀬課長の距離感が近すぎるんだよね。
真理子は頬にあてた手をぱっと離すと、ぽんと手を叩く。
――成瀬課長は、近視ってことにしよう。うん、うん。眼鏡外したら見えないもんね。そうだ、そうだ。
“我ながら名案”と、真理子は腕を組んで頷いた。
そして自分に向けられた冷たい視線に気がつき、はたと顔を上げる。
「あ……えっと……」
しまった、打ち合わせ中だった。
「真理子さん。大丈夫ですか?」
卓也が心配そうに、真理子の顔を覗き込んでいる。
それと同時に、机の向かいから成瀬の大きなため息が聞こえてきた。
「水木さんは、百面相か何かですか?」
資料に目を落としたまま小さくつぶやく成瀬に、真理子は大きく頬を膨らませて睨みつける。
その様子に卓也は首を傾げたが、成瀬はそんなこと意に介さず、淡々と話をつづけた。
「では、この三パターンで、一度社長の意見を……」
成瀬がそこまで言いかけた時、突然後ろから現れた誰かが、成瀬の肩に親しげに手をかけた。
真理子は、打ち合わせスペースで卓也の声を聞きながら、同じように耳を傾ける成瀬の横顔をチラッとうかがった。
ここ数日は手が足りているからと、家政婦業はお休みになっている。
――乃菜ちゃんのパパが、帰って来てるってことかな。
真理子はそんなことを考えながら、もう一度そっと成瀬の横顔を盗み見る。
いつも通り整った成瀬の顔の、顎先のラインから唇に目線を移し、ドキッとして目を伏せた。
初めて家政婦の仕事をして以降、真理子は定期的に家政婦として乃菜のマンションに通っている。
今では成瀬が残業で早くに帰れない日は、真理子が乃菜のお迎えに行き、夕飯の準備もしていた。
相変わらず乃菜の父親に会うことはなく、自然と成瀬と乃菜と真理子の三人で食卓を囲むことが多くなった。
――結婚って、こんな感じなのかな。
まるで家族ごっこの様な生活に、真理子は時々勘違いしてしまいそうになる。
『もっと、成瀬課長の事を知りたい』
真理子の欲求は日に日に増すばかりで、成瀬の側にいるだけでドキドキと心拍数が上がることも度々だった。
だから本心を言えば、真理子も泊まり込みの家政婦でいいと思っていた。
でも最近は、ある程度の時間になると「明日も早いから」と成瀬に帰される。
だから、真理子がマンションに泊まったのは、あの一度きりだった。
――私が意識してるの、気がついてるのかなぁ。
真理子は小さくため息をつく。
――私ってば、ほんっとうに恋愛音痴すぎ。成瀬課長の行動は全部、私が家政婦のパートナーだからで、きっと深い意味はないんだよね……。
そう思いながらも、真理子は鼻先にかかる成瀬の吐息を思い出し、ついつい赤面する。
真理子は頬を両手で押さえながら、そっと顔を上げた。
成瀬はというと、会社用の眼鏡をかけた“クール王子”の顔で、淡々と卓也の話に頷いている。
――とにかく毎回、成瀬課長の距離感が近すぎるんだよね。
真理子は頬にあてた手をぱっと離すと、ぽんと手を叩く。
――成瀬課長は、近視ってことにしよう。うん、うん。眼鏡外したら見えないもんね。そうだ、そうだ。
“我ながら名案”と、真理子は腕を組んで頷いた。
そして自分に向けられた冷たい視線に気がつき、はたと顔を上げる。
「あ……えっと……」
しまった、打ち合わせ中だった。
「真理子さん。大丈夫ですか?」
卓也が心配そうに、真理子の顔を覗き込んでいる。
それと同時に、机の向かいから成瀬の大きなため息が聞こえてきた。
「水木さんは、百面相か何かですか?」
資料に目を落としたまま小さくつぶやく成瀬に、真理子は大きく頬を膨らませて睨みつける。
その様子に卓也は首を傾げたが、成瀬はそんなこと意に介さず、淡々と話をつづけた。
「では、この三パターンで、一度社長の意見を……」
成瀬がそこまで言いかけた時、突然後ろから現れた誰かが、成瀬の肩に親しげに手をかけた。