成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「俺はA案がいいな。柊馬もそう思うだろ?」
成瀬の横からデザイン案を覗き込む男性。
――なんだか優しそうな、爽やかイケメン。こんな人、社内にいたっけ?
真理子が首を傾げながら様子を伺っていると、にっこりとほほ笑んだ男性と目が合った。
どこかで見たことがあるような笑顔だ。
「まぁ、そうですね。社長がそう言うのであれば……」
その時、成瀬の冷静な声が聞こえ、真理子と卓也は思わず顔を見合わせる。
「え!?」
「社長!?」
社長は、ふんわりと揺れる柔らかそうな前髪に手をかけると、にっこりとほほ笑んだ。
――社長って、こんなに若い人だったんだ……。
噂では、社長は国内外を忙しく飛び回っており、普段フロアの奥のシステム部で仕事をしている真理子は、顔をまともに見たこともなかった。
以前チラッと廊下で見かけただけの、社長の後姿を思い出す。
「新チームの二人だよね? オンラインショップの件、よろしくね」
社長は親しげに明るくそう言うと、ふと真理子の顔を覗き込んだ。
「え? は、はい。がんばります……」
突然、社長の爽やかな顔に見つめられ、真理子はどぎまぎとしながら返事をする。
そっと成瀬に視線を送ったが、成瀬はその様子を横目でチラッと見ただけだった。
「ふーん」
社長は顎に手を当てると、にっこりと真理子にほほ笑んだ。
「またね」
社長は首を傾げる真理子から目をそらすと、片手を上げて軽やかにフロアを出て行く。
社長が去ったその場には、不思議な存在感と爽やかな香りが残っていた。
ぼんやりと社長の後姿を見送っていた真理子の耳に、成瀬の大きな咳ばらいが聞こえる。
「では。そういうことですので、佐伯くんは先を進めてください」
ぴりっとした成瀬の低い声が打ち合わせスペースに響き、真理子は慌てて視線をフロアから戻した。
「それと……」
成瀬の眼鏡の奥から覗く鋭い瞳が、真理子を睨みつけている。
「え?」
「水木さんは、もう少し集中してください」
成瀬は資料を指先でトントンと叩いた。
「ひ……」
真理子は顔を青くして背筋をぴんとさせる。
今の成瀬の目は、仕事モードの“クール王子”じゃない。
お怒りモードの“家政夫の成瀬さん”の表情そのものだ。
「は……はい」
しゅんとした真理子の小さな声を聞くと、成瀬は再びため息をつきながらフロアに戻って行った。
「あーあ。怒られちゃったぁ……」
打ち合わせスペースからデスクに戻る途中、真理子はぐったりと天井を仰ぐ。
成瀬の顔を見ると色々と考えてしまい、どうしてもペースを乱される。
はぁとため息をつきながら隣を振り返ると、卓也はさっきから下を向いて黙ったままだ。
「どうしたの?」
真理子は首を傾げながら、卓也に声をかけた。
「成瀬課長、いつもと違いましたよね?」
卓也がボソッとつぶやく。
「え? そ、そうかな……? いつも通りだったような?」
なんとなく取り繕うように答える真理子の顔を、卓也はジトっとした目で見つめている。
「真理子さんって、成瀬課長と親しいんですか?」
「は!? な、なんで?」
真理子は思わず大きく体をのけぞらせた。
「成瀬課長があんな風に顔に出すのって、初めて見たんですよね」
「そ、そうかな? でも私、怒られたんだよ?」
「それすら今までは見たことなかったんですよ。何があっても冷静沈着っていうか。我関せずっていうか……冷たい感じで」
「ま、まぁ。確かにそうだけど……」
「社長とも親しそうだったし。……成瀬課長って、謎が多い人ですね」
卓也はそれ以上何も言わなかった。
成瀬の横からデザイン案を覗き込む男性。
――なんだか優しそうな、爽やかイケメン。こんな人、社内にいたっけ?
真理子が首を傾げながら様子を伺っていると、にっこりとほほ笑んだ男性と目が合った。
どこかで見たことがあるような笑顔だ。
「まぁ、そうですね。社長がそう言うのであれば……」
その時、成瀬の冷静な声が聞こえ、真理子と卓也は思わず顔を見合わせる。
「え!?」
「社長!?」
社長は、ふんわりと揺れる柔らかそうな前髪に手をかけると、にっこりとほほ笑んだ。
――社長って、こんなに若い人だったんだ……。
噂では、社長は国内外を忙しく飛び回っており、普段フロアの奥のシステム部で仕事をしている真理子は、顔をまともに見たこともなかった。
以前チラッと廊下で見かけただけの、社長の後姿を思い出す。
「新チームの二人だよね? オンラインショップの件、よろしくね」
社長は親しげに明るくそう言うと、ふと真理子の顔を覗き込んだ。
「え? は、はい。がんばります……」
突然、社長の爽やかな顔に見つめられ、真理子はどぎまぎとしながら返事をする。
そっと成瀬に視線を送ったが、成瀬はその様子を横目でチラッと見ただけだった。
「ふーん」
社長は顎に手を当てると、にっこりと真理子にほほ笑んだ。
「またね」
社長は首を傾げる真理子から目をそらすと、片手を上げて軽やかにフロアを出て行く。
社長が去ったその場には、不思議な存在感と爽やかな香りが残っていた。
ぼんやりと社長の後姿を見送っていた真理子の耳に、成瀬の大きな咳ばらいが聞こえる。
「では。そういうことですので、佐伯くんは先を進めてください」
ぴりっとした成瀬の低い声が打ち合わせスペースに響き、真理子は慌てて視線をフロアから戻した。
「それと……」
成瀬の眼鏡の奥から覗く鋭い瞳が、真理子を睨みつけている。
「え?」
「水木さんは、もう少し集中してください」
成瀬は資料を指先でトントンと叩いた。
「ひ……」
真理子は顔を青くして背筋をぴんとさせる。
今の成瀬の目は、仕事モードの“クール王子”じゃない。
お怒りモードの“家政夫の成瀬さん”の表情そのものだ。
「は……はい」
しゅんとした真理子の小さな声を聞くと、成瀬は再びため息をつきながらフロアに戻って行った。
「あーあ。怒られちゃったぁ……」
打ち合わせスペースからデスクに戻る途中、真理子はぐったりと天井を仰ぐ。
成瀬の顔を見ると色々と考えてしまい、どうしてもペースを乱される。
はぁとため息をつきながら隣を振り返ると、卓也はさっきから下を向いて黙ったままだ。
「どうしたの?」
真理子は首を傾げながら、卓也に声をかけた。
「成瀬課長、いつもと違いましたよね?」
卓也がボソッとつぶやく。
「え? そ、そうかな……? いつも通りだったような?」
なんとなく取り繕うように答える真理子の顔を、卓也はジトっとした目で見つめている。
「真理子さんって、成瀬課長と親しいんですか?」
「は!? な、なんで?」
真理子は思わず大きく体をのけぞらせた。
「成瀬課長があんな風に顔に出すのって、初めて見たんですよね」
「そ、そうかな? でも私、怒られたんだよ?」
「それすら今までは見たことなかったんですよ。何があっても冷静沈着っていうか。我関せずっていうか……冷たい感じで」
「ま、まぁ。確かにそうだけど……」
「社長とも親しそうだったし。……成瀬課長って、謎が多い人ですね」
卓也はそれ以上何も言わなかった。