成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】

キラキラの宝物

「準備もできたし、少し早いけど出かけるか」

 成瀬が、壁にかかった時計に目を向けながら声を出す。
 真理子は「あ!」と小さく声をあげ、会社から持ってきた王冠のおもちゃを鞄から取り出した。

「乃菜ちゃん。これ、付けていく?」

 真理子は王冠の真ん中のボタンを押し、ライトを点滅させると、乃菜の目の前に差し出した。

「わぁ!」

 乃菜は目をまんまるにすると、興味津々で真理子の手元を覗き込む。

「それ。懐かしいな」

 成瀬も一緒に真理子の手元を覗き込んだ。

「すごくきれい! つけていいの?」
「もちろん!」

 真理子の声に、乃菜はぴょんぴょんとその場でジャンプした。

「じゃぁ付けてあげるね」

 真理子は、おだんごにした乃菜の髪にそっと王冠を付けてあげる。
 乃菜はいっちょ前に、その様子を手鏡で確認すると、にんまりと口元を引き上げた。

「かわいい!!!」

 乃菜は瞳を輝かせながら、真理子と成瀬の周りを何度もくるくると跳ね回っている。

「ねぇ、とうたん。おえかきしていい? のな、このキラキラもかきたいの」

 乃菜はそう言うと、走ってリビングのローテーブルに向かい、スケッチブックと色鉛筆を掲げた。

「いつもキラキラ描いてるもんな。まだ時間はあるし、描いてていいぞ」

 うなずいて答える成瀬を見ながら、真理子は首を傾げた。

「キラキラって?」
「あぁ。イルミネーションライトのことなんだよ」
「え? サワイライトのですか?」
「そう。前に乃菜を、うちの製品を使ったイルミネーションに連れて行ったことがあってな。それ以来、城とか公園とかのイルミネーションを自分でデザインして描いてるんだ」

 成瀬は重ねて置いてあるスケッチブックを取ると、ページを広げながら真理子に手渡した。

「すごい! 将来有望なデザイナーじゃないですか!」
「まあな。人事部としては、しっかりチェックしておかないとだな」

 成瀬はえっへんと、眼鏡をかけ直すふりをする。
 真理子は、初めて目撃したおどけた成瀬の姿に、一瞬ぽかんと口を開ける。
 そして次の瞬間、お腹を抱えて大笑いしていた。

「え? そんなに、変だったか?」

 成瀬は照れて頭をかいている。

「違います……。まさか“クール王子”が冗談を言うなんて……」

 真理子は、笑いすぎて指で涙をぬぐいながら答えた。

「あのな。俺は普段、どんだけ堅物のイメージなんだ……」

 腕を組んで渋い顔をする成瀬に、後ろからスケッチブックを持った乃菜が飛びついた。

「とうたん。みてみてー!」
「お、上手じゃないか」

 振り返った成瀬は、乃菜をひょいと軽く抱き上げると、くるりと回転する。
 きゃっきゃと声を上げている乃菜と成瀬の姿を見ながら、真理子の胸はどんどん高鳴っていた。

 ――家政婦のパートナーだけじゃない。成瀬課長の隣に立てる女性(ひと)になりたい……。

 真理子は両手を胸の前で、ぎゅっと強く握りしめた。
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