成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
乃菜を真ん中に、三人で手をつなぎながら園までの夜道を歩く。
乃菜の頭の上では、王冠がピカピカと点滅しながら光っている。
「パパにもみせたかったなぁ」
少し寂しそうにつぶやく乃菜に、成瀬が「そうだな……」と小さく答えた。
「乃菜ちゃんのパパは今日もお仕事ですか?」
「あぁ。急な会食が入ったらしくて。真理子にもちゃんと挨拶したいって、言ってたんだけどな」
「本当にお忙しい方なんですね。まだ一度もお会いしてないですし」
真理子がそう言うと、成瀬は一瞬目線を上げ、何か考えるような表情を見せる。
「まぁでも、またすぐに会うだろ」
しばらくして成瀬はそう言うと、真理子に笑顔を向けた。
真理子はその言い方に首を傾げつつも、小さく頷く。
園に到着すると、すでにお祭りは始まっていて、賑やかな声と明るい音楽が響き渡っていた。
乃菜はすぐに友達を見つけて、盆踊りの輪の中に走って行く。
頭でピカピカと光る王冠を、興味津々で覗き込む友達に、乃菜は少し得意げな顔をしながら見せて回っていた。
「ありがとうな」
少し離れた場所で、その様子を見守りながら成瀬が声を出した。
「いえ。乃菜ちゃんが喜んでくれて良かったです」
真理子は肩をすくめながら、成瀬をそっと見上げる。
「あの王冠が宝物だって、言ってたよな。面接の時」
成瀬はほほ笑みながら、真理子の顔を振り返った。
「え!? な、なんで知ってるんですか!?」
真理子は驚いて目を丸くした。
「お前の採用面接の時は、俺もいたんだよ。目立たない端っこにね」
成瀬は、指で隅の方を指すと、あははと声を上げている。
「えぇ……。知らなかったです。ちょっと、恥ずかしいかも……」
真理子は両手で頬を覆った。
電飾玩具への想いを熱弁した、あの日の記憶が蘇る。
すると成瀬が、真理子の肩に手をかけながら、そっと耳元に顔を寄せた。
「お前は好印象だったよ。最初に見た時からね」
成瀬はにっこりとほほ笑むと、櫓の上から手を振っている乃菜の方へと歩いて行った。
「え……それって、どういう意味……?」
真理子は、成瀬の背中をじっと見つめた。
成瀬の行動や言葉にはきっと深い意味はない。
そう心の中で自分に言い聞かせつつも、鼓動は次第に早くなっていく。
真理子は熱をもったように赤くなる頬を手で仰ぎながら、成瀬の隣に駆け寄った。
「とうたーん。まりこちゃーん」
乃菜はよっぽど楽しいのか、満面の笑みで手を振っている。
「乃菜。こっち見て」
乃菜の様子を写真に撮る成瀬の隣で、真理子も大きく手を振った。
「あら。乃菜ちゃんとこの……」
すると突然隣に立つ女性に話かけられ、真理子はドキッとして振り返る。
「乃菜ちゃんに仲良くしてもらってる、サキの母です。いつもお世話になってます」
女性はほほ笑むと、丁寧に頭を下げた。
「こ、こちらこそ……」
真理子は慌てて、女性に向かってぺこりとお辞儀をする。
「仲が良くって素敵ですね」
女性は口元に手を当てて小さくそう言うと、にっこりと笑顔を見せて去って行った。
――私たちって、傍から見たら家族なのかな?
女性の後ろ姿を見送りながら、ぼんやりとそんな事を考える。
そして真理子は、ふと隣の成瀬を見上げた。
「成瀬課長……」
そう呼びかけようとして、真理子は一旦言葉を飲み込んだ。
――もっと、この人に近づきたい。
真理子は深呼吸をしてから、自分を励ますように小さくうなずいた。
「と……柊馬さん」
勇気を出してそう呼んだ真理子の目の前で、成瀬の肩がビクッと動く。
「お、おう。なんだか、急に呼ばれると照れるな」
頭をかく成瀬の頬は、提灯の明かりに照らされて、ほのかに赤く染まって見えた。
乃菜の頭の上では、王冠がピカピカと点滅しながら光っている。
「パパにもみせたかったなぁ」
少し寂しそうにつぶやく乃菜に、成瀬が「そうだな……」と小さく答えた。
「乃菜ちゃんのパパは今日もお仕事ですか?」
「あぁ。急な会食が入ったらしくて。真理子にもちゃんと挨拶したいって、言ってたんだけどな」
「本当にお忙しい方なんですね。まだ一度もお会いしてないですし」
真理子がそう言うと、成瀬は一瞬目線を上げ、何か考えるような表情を見せる。
「まぁでも、またすぐに会うだろ」
しばらくして成瀬はそう言うと、真理子に笑顔を向けた。
真理子はその言い方に首を傾げつつも、小さく頷く。
園に到着すると、すでにお祭りは始まっていて、賑やかな声と明るい音楽が響き渡っていた。
乃菜はすぐに友達を見つけて、盆踊りの輪の中に走って行く。
頭でピカピカと光る王冠を、興味津々で覗き込む友達に、乃菜は少し得意げな顔をしながら見せて回っていた。
「ありがとうな」
少し離れた場所で、その様子を見守りながら成瀬が声を出した。
「いえ。乃菜ちゃんが喜んでくれて良かったです」
真理子は肩をすくめながら、成瀬をそっと見上げる。
「あの王冠が宝物だって、言ってたよな。面接の時」
成瀬はほほ笑みながら、真理子の顔を振り返った。
「え!? な、なんで知ってるんですか!?」
真理子は驚いて目を丸くした。
「お前の採用面接の時は、俺もいたんだよ。目立たない端っこにね」
成瀬は、指で隅の方を指すと、あははと声を上げている。
「えぇ……。知らなかったです。ちょっと、恥ずかしいかも……」
真理子は両手で頬を覆った。
電飾玩具への想いを熱弁した、あの日の記憶が蘇る。
すると成瀬が、真理子の肩に手をかけながら、そっと耳元に顔を寄せた。
「お前は好印象だったよ。最初に見た時からね」
成瀬はにっこりとほほ笑むと、櫓の上から手を振っている乃菜の方へと歩いて行った。
「え……それって、どういう意味……?」
真理子は、成瀬の背中をじっと見つめた。
成瀬の行動や言葉にはきっと深い意味はない。
そう心の中で自分に言い聞かせつつも、鼓動は次第に早くなっていく。
真理子は熱をもったように赤くなる頬を手で仰ぎながら、成瀬の隣に駆け寄った。
「とうたーん。まりこちゃーん」
乃菜はよっぽど楽しいのか、満面の笑みで手を振っている。
「乃菜。こっち見て」
乃菜の様子を写真に撮る成瀬の隣で、真理子も大きく手を振った。
「あら。乃菜ちゃんとこの……」
すると突然隣に立つ女性に話かけられ、真理子はドキッとして振り返る。
「乃菜ちゃんに仲良くしてもらってる、サキの母です。いつもお世話になってます」
女性はほほ笑むと、丁寧に頭を下げた。
「こ、こちらこそ……」
真理子は慌てて、女性に向かってぺこりとお辞儀をする。
「仲が良くって素敵ですね」
女性は口元に手を当てて小さくそう言うと、にっこりと笑顔を見せて去って行った。
――私たちって、傍から見たら家族なのかな?
女性の後ろ姿を見送りながら、ぼんやりとそんな事を考える。
そして真理子は、ふと隣の成瀬を見上げた。
「成瀬課長……」
そう呼びかけようとして、真理子は一旦言葉を飲み込んだ。
――もっと、この人に近づきたい。
真理子は深呼吸をしてから、自分を励ますように小さくうなずいた。
「と……柊馬さん」
勇気を出してそう呼んだ真理子の目の前で、成瀬の肩がビクッと動く。
「お、おう。なんだか、急に呼ばれると照れるな」
頭をかく成瀬の頬は、提灯の明かりに照らされて、ほのかに赤く染まって見えた。