成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 大会議室には、オンラインショップに関わるチームメンバーが一斉に集まっていた。
 今日は社長への、最終確認を行う日だ。
 ここで社長のオッケーが出れば、すぐにサイトはオープンとなる。

 ガチャリと扉の開く音が聞こえ、ざわついていた室内は一気に静まり返った。

「皆さん、お待たせしました」

 社長は爽やかな笑顔を見せながら颯爽と現れると、一番正面の席につく。

「では早速、初めてください」

 隣に座る成瀬から、資料を受け取りながら柔らかい声を出した。

 オンラインショップがオープンした後は、通販事業部がサイトの運営に携わることになる。
 説明はその担当者が行った。
 真理子は後ろの方の席に座り、卓也と共に映し出されるスライドに目を向ける。
 社長は説明の合間も、時折成瀬に話しかけ細かい説明を受けているようだった。

 ――やっぱり、親しそうだな。

 真理子は、自然に会話する二人の様子をぼんやりと眺めていた。
 担当者からの説明が一通り終わり、部屋がパッと明るくなった。
 社長は、納得した様子でうなずいている。

「皆さん、お疲れさまでした。短期間でここまでのものを仕上げて頂き、僕も嬉しく思っています。この内容で、サイトをオープンさせましょう」

 会議室内には、安堵の声が漏れ、みんなの拍手が聞こえた。
 真理子もほっとして、隣に座る卓也とほほ笑み合う。

 ――これでチームも解散かぁ……。

 ふと寂しさを感じながら、そっと成瀬に目線を向け、真理子はドキッとした。
 成瀬がいつになく優しい瞳で、真理子を見つめているのだ。

「え?」

 すると、真理子を見つめたままの、成瀬の口元がゆっくりと動く。

 『お・つ・か・れ』

 そう読み取れた途端、真理子は全身がカーッと熱くなり、真っ赤な顔で慌てて目を伏せた。

「どうしたんですか?」

 首を傾げる卓也に、真理子は下を向いたまま、何度も繰り返し首を振った。

 しばらくして、社長は立ち上がると、ぐるりとみんなを見回した。

「今、サワイライトは、新たな転換期を迎えています。イルミネーションライトの企業として、全国的にその名を(とどろ)かせたい、これが僕の夢です」

 社長の言葉に力がこもる。

「この自社サイトは、その第一歩だと思っています。オープン後には、大々的にWEB広告を出し、この秋冬のイルミネーション商材として宣伝をかけていきます。今後も社員一丸となって、取り組んでいきましょう」

 社長の力強い言葉に、会議室内は大きな拍手に包まれた。

「社長の言葉って初めて聞きましたけど、なんかすごい人ですね」

 卓也が真理子の耳元でささやく。
 真理子は、社長の顔を見つめたまま、深く頷いた。

 ――ものすごくカリスマ性のある人。

 噂では、前社長が亡くなって、急に息子が会社を継いだという事だったが、さすが会社を立て直した人物だけのことはある。
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