成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
真理子が、そのちぐはぐさに吹き出して肩を揺らしていると、成瀬が小さく肘で真理子の腕を小突いた。
「まあ、お前が元気そうで良かったよ。最近、疲れた顔してたからな……」
急に優しい声を出す成瀬に、真理子は目を丸くして隣を見上げる。
「私のこと……見てたんですか?」
真理子はドキドキと、鼓動が早くなるのを感じながら小さく声を出した。
「当たり前だろ。お前のことはいつも見てる……」
「え……」
「辛かったら、辞めてもいいんだぞ。家政婦……。そもそも俺が無理やり、お前をパートナーにしたんだから」
成瀬はそう言いながら、静かに目を伏せた。
真理子はバッと勢いよく隣を向くと、みんなから見えないように、成瀬のシャツの袖をきゅっと掴む。
「嫌です! 絶対にやめません。……側にいたいんです」
真理子は、つい口をついて出た自分の言葉にはっとすると、大袈裟に両手を顔の前で振った。
「お前……」
成瀬が何か言おう口を開く。
「あ、えっと。乃菜ちゃんの側に……ってことです」
真理子は慌てて取り繕うようにそう言うと、うつむいて鍋のカレーをぐるぐるとかき回した。
「俺も、カレーもらおうかな。柊馬の特製トッピング付きで」
すると、急に目の前で明るい声が聞こえ、真理子は慌てて顔を上げた。
見ると社長が、にっこりとほほ笑んで立っている。
「いろいろとありがとうね。真理子ちゃん」
突然、自分の名前を呼ぶ社長に、真理子は訳が分からずに首を傾げた。
「はい……?」
そのまま隣の成瀬を見上げると、少し驚いたような表情で社長を見つめている。
「あの……」
真理子が話しかけようとした瞬間、大きな音を立てて入り口の扉が開かれた。
「この騒ぎは、いったい何事だ!!」
ものすごい剣幕の怒鳴り声と共に、人影がドタドタと中へ入ってくる。
「うわ。専務と秘書だ……」
誰かの声が聞こえ、真理子もはっと入り口に目を向けた。
「ここで、何をしている!」
専務は頭に撫でつけられた髪を乱しながら、大きく肩を怒らせている。
「あぁ、すみません。役員の皆さんには、お声かけしていなかったですね」
社長はそう答えると、全く動じた様子は見せないまま、前へと歩み出た。
シーンと静まり返った会議室内で、睨み合う二人の様子を、みんなが固唾をのんで見守っている。
「オンラインショップが完成したので、そのお祝いにと思いまして。社内の慰労会も、最近は行われていないですしね」
落ち着いた声を出す社長に、専務は「ふん」と鼻を鳴らした。
「勝手なことしおって! 就業時間内だ。全員すぐに仕事に戻れ!」
専務はぐるりと会場を見回しながら怒鳴りつけると、成瀬の顔を見つけ一旦視線を止める。
「トップも人事部もこれでは、先が思いやられるわい。これだから、外から来たモンは……。」
そう捨て台詞を残すと、専務は秘書と共に足音を鳴らしながら出て行った。
事の成り行きを静かに見守っていた真理子たち社員は、気まずい空気を抱えたまま静かに会議室を後にする。
――社長と専務って、ここまで関係が悪かったんだ……。
初めて垣間見えた社内の事情に、真理子は複雑な気持ちを抱く。
入り口からそっと振り返ると、静かに佇む社長の拳は、かすかに揺れて見えていた。
「まあ、お前が元気そうで良かったよ。最近、疲れた顔してたからな……」
急に優しい声を出す成瀬に、真理子は目を丸くして隣を見上げる。
「私のこと……見てたんですか?」
真理子はドキドキと、鼓動が早くなるのを感じながら小さく声を出した。
「当たり前だろ。お前のことはいつも見てる……」
「え……」
「辛かったら、辞めてもいいんだぞ。家政婦……。そもそも俺が無理やり、お前をパートナーにしたんだから」
成瀬はそう言いながら、静かに目を伏せた。
真理子はバッと勢いよく隣を向くと、みんなから見えないように、成瀬のシャツの袖をきゅっと掴む。
「嫌です! 絶対にやめません。……側にいたいんです」
真理子は、つい口をついて出た自分の言葉にはっとすると、大袈裟に両手を顔の前で振った。
「お前……」
成瀬が何か言おう口を開く。
「あ、えっと。乃菜ちゃんの側に……ってことです」
真理子は慌てて取り繕うようにそう言うと、うつむいて鍋のカレーをぐるぐるとかき回した。
「俺も、カレーもらおうかな。柊馬の特製トッピング付きで」
すると、急に目の前で明るい声が聞こえ、真理子は慌てて顔を上げた。
見ると社長が、にっこりとほほ笑んで立っている。
「いろいろとありがとうね。真理子ちゃん」
突然、自分の名前を呼ぶ社長に、真理子は訳が分からずに首を傾げた。
「はい……?」
そのまま隣の成瀬を見上げると、少し驚いたような表情で社長を見つめている。
「あの……」
真理子が話しかけようとした瞬間、大きな音を立てて入り口の扉が開かれた。
「この騒ぎは、いったい何事だ!!」
ものすごい剣幕の怒鳴り声と共に、人影がドタドタと中へ入ってくる。
「うわ。専務と秘書だ……」
誰かの声が聞こえ、真理子もはっと入り口に目を向けた。
「ここで、何をしている!」
専務は頭に撫でつけられた髪を乱しながら、大きく肩を怒らせている。
「あぁ、すみません。役員の皆さんには、お声かけしていなかったですね」
社長はそう答えると、全く動じた様子は見せないまま、前へと歩み出た。
シーンと静まり返った会議室内で、睨み合う二人の様子を、みんなが固唾をのんで見守っている。
「オンラインショップが完成したので、そのお祝いにと思いまして。社内の慰労会も、最近は行われていないですしね」
落ち着いた声を出す社長に、専務は「ふん」と鼻を鳴らした。
「勝手なことしおって! 就業時間内だ。全員すぐに仕事に戻れ!」
専務はぐるりと会場を見回しながら怒鳴りつけると、成瀬の顔を見つけ一旦視線を止める。
「トップも人事部もこれでは、先が思いやられるわい。これだから、外から来たモンは……。」
そう捨て台詞を残すと、専務は秘書と共に足音を鳴らしながら出て行った。
事の成り行きを静かに見守っていた真理子たち社員は、気まずい空気を抱えたまま静かに会議室を後にする。
――社長と専務って、ここまで関係が悪かったんだ……。
初めて垣間見えた社内の事情に、真理子は複雑な気持ちを抱く。
入り口からそっと振り返ると、静かに佇む社長の拳は、かすかに揺れて見えていた。