成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】

休日のお出かけ

 懐かしさを感じさせる明るい電子音と、ゴーッという大きなローラーの音。
 人々の笑い声や、楽しそうな叫び声を聞きながら、真理子たちはパークの中を歩いていた。
 ここは自然公園と遊園地が一緒になった、大型のテーマパークだ。


「仕事もひと段落したし、休みにどこか出かけるか?」

 数日前の夕食の時に、成瀬が突然そう言いだした。
 オンラインショップはオープン以降、順調に顧客を増やし、売り上げを伸ばしている。
 予定通り新チームは解散となり、通常業務に戻った真理子たちは、一時の忙しさからは解放されていた。

 ただ、社長が主催したランチ会での出来事は、噂が尾ひれをつけて広がり、社内の雰囲気はあまり良いといえるものではなくなっていた。
 そしてその対応に追われているのか、成瀬も最近疲労の色が見え隠れする時がある。

 ――柊馬さんも、たまにはリフレッシュしたいよね。

 真理子はそう思いながら、笑顔で乃菜を振り返る。

「動物園とか水族館とか、いいんじゃない?」

 乃菜は瞳をキラキラと輝かせると、天井を見上げる。

「えーっとね。えーっとね」

 乃菜は、一生懸命にどこにしようか考えているようだ。

「乃菜が前に、行きたいって言ってた所があったよな?」

 しばらくして成瀬がそう言うと、乃菜ははっとした顔をする。
 そして急いで持っていた箸をテーブルに置くと、リビングに走って行った。

「のなね! ここにいきたい!」

 満面の笑みで戻ってきた乃菜の手には、小さなチラシが握られている。

「どれどれ?」

 真理子は、テーブルに置かれた細長い紙を覗き込んだ。
 それはよくスーパーに置いてある、テーマパークの割引券がついたものだった。
 表には観覧車やジェットコースターの写真があり、裏面には広大な敷地のイルミネーションの写真が載っていた。

「あ。ここって……」

 真理子が声を出し振り返ると、成瀬が小さく頷いている。

「うちの製品を使った、イルミネーション施設だな。この企画は、うちがイルミネーションのデザインから関わった、初めての施設なんだ」
「そうだったんですね」

 成瀬の声にうなずきながら、真理子は乃菜の顔を覗き込んだ。

「乃菜ちゃんは、キラキラが大好きだもんね。じゃあ、ここにしようか?」

 開いた目をさらに丸く見開いた乃菜は、グーにした手を胸元で振っている。

「うんっっ!」

 乃菜は大きく返事すると、ダイニングテーブルの周りをぴょんぴょんと飛び回った。

「こらこら! 乃菜、食事中だぞ」

 そう言いながらも、成瀬の表情は柔らかい。

 ――柊馬さんと一緒に遊園地に行けるなんて、デートみたいでドキドキする……。

 それから週末までの数日間、真理子は乃菜と一緒にお出かけの日を、指折り数えて楽しみに待った。

「子供が二人になったみたいだな……」

 キッチンから聞こえる成瀬の声は、いつもよりも弾んで聞こえた。
< 25 / 101 >

この作品をシェア

pagetop