成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 爽やかな秋晴れの風を感じながら、真理子は乃菜とパークの中を走り回っていた。
 もうすでにメリーゴーラウンドやブランコ、飛行機の乗り物にアスレチックと、いくつもアトラクションを巡っている。
 さすがの真理子も息が切れて来ていた。
 振り返ると、成瀬はだいぶ遅れをとって追いかけてくる。

「のなね、次はあれに乗りたい!」

 子供向けのジェットコースターを指さす乃菜に、真理子は膝に手をつきながら顔を上げた。

「の、乃菜ちゃん……。ちょっとだけ休憩していい?」
「うーん。じゃあ、ソフトクリームたべたい」
「オッケー……」

 真理子はパラソルの下のテーブルと椅子を見つけると、倒れ込むように座り込んだ。

「お前、すごい体力だな……」

 やっと追いついた成瀬が、同じように椅子にドカッと座り込む。

「いえ、もう限界です……足腰バキバキ」

 顔をゆがめる真理子に、成瀬があははと笑い声をあげた。
 乃菜はそんな成瀬の顔を、にこにこしながら見上げていた。

「まりこちゃん、しってる? とーたんはね、まりこちゃんがきてから、いつもわらってるんだよ」

 ソフトクリームを買いに、売店へと向かう成瀬の背中を見つめながら、乃菜が嬉しそうな声を出した。

「え?」

 真理子はドキッとして、少し大人びた表情をする乃菜の顔を見つめる。

「とーたんは、まりこちゃんがいえにくると、いっつもたのしそうなの」
「でも、柊馬さんはいつだって、乃菜ちゃんに笑ってるじゃない?」
「ちがうんだよ」

 乃菜は口をとがらせると、人差し指をぴんと上に向ける。

「まりこちゃんは、トクベツなの!」

 乃菜の言葉を聞きながら、真理子はソフトクリームを持って歩いてくる成瀬の姿を見つめた。

 ――本当に、特別になれたらいいのに。

 真理子は苦しくなる胸元を、キュッと握りしめる。


「お待たせ。何、話してたんだ?」

 成瀬がソフトクリームを、乃菜と真理子に手渡しながら首を傾げる。

「おんなのこだけのヒ・ミ・ツ。ね、まりこちゃん」

 乃菜は、成瀬にツンとそっぽを向くと、真理子を振り返った。

「そう、ヒミツだね」

 真理子は乃菜と肩をすくめて、ほほ笑み合った。

「あ! シャボンだま! いってきていい?」

 乃菜はピエロの衣装を着たスタッフが吹く、大きなシャボン玉を見つけると、食べかけのソフトクリームを真理子に渡し、急いで走って行く。

「おい! ソフトクリーム溶けるぞ……」

 成瀬が声をかけたが、乃菜はもう遊びに夢中になっている。

「あれ? そう言えば、柊馬さんは食べないんですか?」

 真理子は、隣でコーヒーを飲む成瀬を振り返った。

「ん? 俺は味見だけでいいから」

 成瀬はそう言うと、突然肩を寄せて、真理子のソフトクリームにかぶりつく。

「ちょ、ちょっと! こ、これは、私のですから!」

 真理子はそう言い、耳まで真っ赤になった顔を隠すように、わざと頬を膨らませた。

「少しくらい、いいだろ」

 成瀬はにんまりと口元を引き上げると、涼しい顔で乃菜に手を振っている。

「もう! 溶けちゃう……」

 真理子はドキドキと早くなる鼓動を感じながら、成瀬がかぶりついたソフトクリームに唇を当てた。
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