成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】

不吉な影

『まりこちゃんは、トクベツなの』

 乃菜の言葉が、頭の中で何度も繰り返し響いている。

 ――柊馬さんの行動は、全部策略だ。パートナーになって欲しいって言ったあの日から、きっと変わってない。そう、わかっているはずなのに……。

 真理子はそっと、成瀬の整った横顔を見上げる。

 ――こんなの……期待しちゃうじゃない。

 傾きかけたオレンジ色の光は、成瀬の黒い髪をブロンズに染めていた。

 イルミネーションは、広大な敷地の自然公園部分にあった。
 エリアは大きく分けて五つで、それぞれにテーマが決まっている。
 一面に広がる光の花畑エリア、水中でライトが光る海エリア、360度をライトに囲まれた光のトンネルエリア、今人気のキャラクターのエリアなどだ。

 今年一番の注目はプロジェクションマッピングと、イルミネーションライトの競演エリアで、ライトアップされたお城の内外で映し出される映像は圧巻だった。
 そして、お城の中はライトが(まばゆ)いほどに輝き、夜なのにまるで昼かと思うほどだ。
 真理子は建物の中に一歩入った途端、まるで光の別世界に来たような感覚に思わず足がすくむ。

「すごい! すごい!」

 乃菜はさっきから大興奮で、ずっと目を輝かせている。
 成瀬に肩車をしてもらいながら、遠くまで続く光の国を全身で楽しんでいた。

「こんなすごい企画に、サワイライトが関わってたなんて……。ちょっとビックリです。今まで全然わかってませんでした。社員なのに、恥ずかしい……」

 ポツリとつぶやく真理子に、成瀬は笑顔を向ける。

「この企画は、ほぼ社長の独走状態だったからな。当然、上層部の反発も大きかったし、他の社員もきっと真理子と同じだと思うよ」

 成瀬は乃菜をゆっくりと下に下ろすと、肩をぐるぐると回している。
 乃菜は、地面にも映し出される映像を追いかけながら、元気に駆け回りだした。

 ――上層部って、専務の事だよね。そういえば……。

 真理子は「ふーん」と声を出しながら、ふとランチ会の時に、真理子の名前を呼んだ社長の顔が思い浮かんだ。

「この前、社長が私の事を名前で呼んだんです。何でだろうって……。柊馬さんは、何か知ってますか?」

 成瀬は腕を組み、しばらく考える様子を見せる。

「さあ……何でかな」

 成瀬がつぶやくように声を出した時、乃菜がこちらへ駆けてくるのが見えた。
 成瀬はしゃがみ込み、飛びついてくる乃菜を抱きとめる。

「とうたん! のな、こーんなにいっぱいのキラキラ、はじめてみた!」

 乃菜は弾けそうな程の笑顔を見せている。

「そうか。乃菜が気に入って良かったよ」

 成瀬も、にこにことほほ笑み、乃菜の頭を優しく撫でる。

「乃菜ちゃん。良かったね」
「うん!」

 真理子が顔を覗き込み、乃菜と成瀬が真理子に笑顔を見せた時、パシャっとどこかでシャッター音が聞こえた。
 不思議に思って周りを見回していると、隣ではっと成瀬が息を吸う音が聞こえる。

「お前……」

 成瀬のいつもよりも低く響く声に、真理子はビクッとしてその目線の先を追った。
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