成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
見ると目の前には、煌びやかなこの場には似合わない程、薄暗い顔をした男性が立っていた。
スマートフォンを掲げるその男性の顔をまじまじと見つめ、真理子は思わず口元に手をあてる。
「……橋本部長!?」
男性は真理子の声にピクッと耳を動かした。
「やっぱりな。最初は誰だか、わからなかったぜ、成瀬さんよぉ。随分と楽しそうじゃねぇか」
成瀬がゆっくりと立ちあがると、橋本が静かにこちらへと近づいてきた。
真理子は、怯える乃菜を急いで抱きしめる。
「何か御用ですか? 元営業部長の橋本さん」
成瀬の厳しい声に、橋本はチッと舌打ちをした。
「誰のせいで、元営業部長になったと思ってんだよ」
「誰のせいでもありません。ご自身の行動の結果だと思いますが……」
「ふざけるな!」
橋本の怒鳴り声に、周りでイルミネーションを見ていた人たちが振り返る。
橋本は「ふんっ」と吐き捨てるように、鼻を鳴らした。
「俺は知ってるんだよ。お前が社長と人事部長に、あることないこと吹きこんで、俺を左遷したってな」
「それは事実ではありません。誰がそんな事を?」
「そんなわけねぇだろ! 専務が言ってたんだからな!」
成瀬は冷たい視線を橋本に向けると、一歩前へ近づく。
「あなたについては、セクハラ・パワハラで人事部に相談が相次いでいました。事実、あなたが理由で優秀な人材を失っています。その結果、会社は新たな人材の確保と育成に、労力を注がなければならなくなった。これが事実です。わかりますか?」
「くっ」と橋本から、悔し紛れな声が漏れる。
しかし橋本は、すぐに真理子と乃菜に目線を向けると、ニヤニヤした顔で見つめた。
「サワイのくだらないライトでも拝んでやろうと思って、フラッとここへ来たが、逆に良いもの見せてもらったよ」
成瀬は橋本の声に目を細める。
「あんただって、社員に手ぇ出してんじゃねぇか。しかもガキまでいたとはな。常務の娘とのお見合いだ、なんだって噂が出てんのによぉ。いいご身分だなぁ」
橋本が掲げたスマートフォンには、乃菜を抱きしめた成瀬が、真理子とほほ笑み合う姿が映し出されていた。
「ちょっと! 何言ってるんですか!? あなたが思い込んでる事は、全て間違ってます!」
真理子は思わず手を伸ばし、橋本のスマートフォンを奪い取ろうとする。
「おっと」
橋本は軽く身を翻すと、にまにまと口元を引き上げた。
「まりこちゃん……こわいよぉ」
乃菜の怯える声が聞こえ、真理子は慌ててしゃがみ込み、乃菜を強く抱きしめた。
「お客様、どうかされましたか?」
振り返ると警備のスタッフが、数名こちらへと走ってくるのが見える。
「何でもありません。お騒がせして申し訳ありません」
成瀬がそう声をかけ、真理子たちが振り返った時には、すでに橋本の姿は人混みにまぎれて見えなくなっていた。
「くそっ」
成瀬が小さく拳を握りしめ、声を漏らす。
「大丈夫でしょうか……」
真理子は不安そうに、成瀬に声をかけた。
「わからん。あいつが、あの写真をどう使うか……」
そして成瀬はふと、不安そうに自分を見上げる乃菜を振り返った。
「せっかくの楽しい時間だったのにな。乃菜、ごめんな」
成瀬はそう言うと、しゃがみ込んで乃菜をぎゅっと抱きしめる。
「とうたん。のな、あのおじさん、こわかったけど、ダイジョウブだよ。だって、とうたんも、まりこちゃんも、ぎゅってしてくれたもん」
「乃菜ちゃん……」
真理子もたまらずにしゃがみ込むと、成瀬と一緒に乃菜を強く抱きしめた。
スマートフォンを掲げるその男性の顔をまじまじと見つめ、真理子は思わず口元に手をあてる。
「……橋本部長!?」
男性は真理子の声にピクッと耳を動かした。
「やっぱりな。最初は誰だか、わからなかったぜ、成瀬さんよぉ。随分と楽しそうじゃねぇか」
成瀬がゆっくりと立ちあがると、橋本が静かにこちらへと近づいてきた。
真理子は、怯える乃菜を急いで抱きしめる。
「何か御用ですか? 元営業部長の橋本さん」
成瀬の厳しい声に、橋本はチッと舌打ちをした。
「誰のせいで、元営業部長になったと思ってんだよ」
「誰のせいでもありません。ご自身の行動の結果だと思いますが……」
「ふざけるな!」
橋本の怒鳴り声に、周りでイルミネーションを見ていた人たちが振り返る。
橋本は「ふんっ」と吐き捨てるように、鼻を鳴らした。
「俺は知ってるんだよ。お前が社長と人事部長に、あることないこと吹きこんで、俺を左遷したってな」
「それは事実ではありません。誰がそんな事を?」
「そんなわけねぇだろ! 専務が言ってたんだからな!」
成瀬は冷たい視線を橋本に向けると、一歩前へ近づく。
「あなたについては、セクハラ・パワハラで人事部に相談が相次いでいました。事実、あなたが理由で優秀な人材を失っています。その結果、会社は新たな人材の確保と育成に、労力を注がなければならなくなった。これが事実です。わかりますか?」
「くっ」と橋本から、悔し紛れな声が漏れる。
しかし橋本は、すぐに真理子と乃菜に目線を向けると、ニヤニヤした顔で見つめた。
「サワイのくだらないライトでも拝んでやろうと思って、フラッとここへ来たが、逆に良いもの見せてもらったよ」
成瀬は橋本の声に目を細める。
「あんただって、社員に手ぇ出してんじゃねぇか。しかもガキまでいたとはな。常務の娘とのお見合いだ、なんだって噂が出てんのによぉ。いいご身分だなぁ」
橋本が掲げたスマートフォンには、乃菜を抱きしめた成瀬が、真理子とほほ笑み合う姿が映し出されていた。
「ちょっと! 何言ってるんですか!? あなたが思い込んでる事は、全て間違ってます!」
真理子は思わず手を伸ばし、橋本のスマートフォンを奪い取ろうとする。
「おっと」
橋本は軽く身を翻すと、にまにまと口元を引き上げた。
「まりこちゃん……こわいよぉ」
乃菜の怯える声が聞こえ、真理子は慌ててしゃがみ込み、乃菜を強く抱きしめた。
「お客様、どうかされましたか?」
振り返ると警備のスタッフが、数名こちらへと走ってくるのが見える。
「何でもありません。お騒がせして申し訳ありません」
成瀬がそう声をかけ、真理子たちが振り返った時には、すでに橋本の姿は人混みにまぎれて見えなくなっていた。
「くそっ」
成瀬が小さく拳を握りしめ、声を漏らす。
「大丈夫でしょうか……」
真理子は不安そうに、成瀬に声をかけた。
「わからん。あいつが、あの写真をどう使うか……」
そして成瀬はふと、不安そうに自分を見上げる乃菜を振り返った。
「せっかくの楽しい時間だったのにな。乃菜、ごめんな」
成瀬はそう言うと、しゃがみ込んで乃菜をぎゅっと抱きしめる。
「とうたん。のな、あのおじさん、こわかったけど、ダイジョウブだよ。だって、とうたんも、まりこちゃんも、ぎゅってしてくれたもん」
「乃菜ちゃん……」
真理子もたまらずにしゃがみ込むと、成瀬と一緒に乃菜を強く抱きしめた。