成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
噂のクール王子
しばらくすると、ポンという音と共にエレベーターの扉が開く。
数人の社員に続いて、真理子も中へと乗り込んだ。
――どこかに恋が落ちてるわけじゃあるまいし、自分の得意なことを生かして、仕事に生きるしかないのかなぁ……。って、そもそも私の特技って何!?
ダメだ。こんな時は、思考がどんどん下り坂になってしまう。
真理子が頭を振りながら、ふと横を見ると営業部の女性社員達が、朝から楽しそうな声を上げている。
「ねえ。昨日、成瀬課長がフロアに来てたんでしょ?」
「そうそう! 珍しいよね。でも、めちゃくちゃカッコよかったぁ」
「あのセクハラ部長が、左遷された時もフロアに来てたじゃない? 今回も何かあるのかもって噂……」
「異動があるって事?」
「わかんないけどね。にしても、あの“クール王子”の笑った顔って、一度でいいから見てみたいよね」
「きっと、二人きりの時だけ見せる、甘い秘密なんだよ」
きゃーという悲鳴にも似た声と共に、女性社員達は足取りも軽く出て行った。
真理子は「ふーん」と鼻を鳴らす。
若くして人事部課長になった成瀬は、目を見張るほどのイケメンで、社内外関係なくファンが多い。
事実、真理子も初めて成瀬を見た時は、そのイケメンぶりに、つい両手を合わせて拝みたくなったほどだ。
アタックしようとする女性社員も多いが、大抵が門前払いをくらう。
というのも、成瀬は“クール王子”と陰で呼ばれるほど、一切笑顔を見せた事がないのだ。
常に冷静沈着、感情を表に出さず、他者とも関わらないため、プライベートは謎に包まれている。
眼鏡の奥の素顔は見せない、まさにミステリアスな氷の彫刻のようだ。
――そりゃ、私だってお近づきになりたいけどさ。遠くから眺めるのが精一杯……。
真理子はため息交じりにタイムカードを押すと、フロアの一番奥、システム部のデスクに向かった。
数人の社員に続いて、真理子も中へと乗り込んだ。
――どこかに恋が落ちてるわけじゃあるまいし、自分の得意なことを生かして、仕事に生きるしかないのかなぁ……。って、そもそも私の特技って何!?
ダメだ。こんな時は、思考がどんどん下り坂になってしまう。
真理子が頭を振りながら、ふと横を見ると営業部の女性社員達が、朝から楽しそうな声を上げている。
「ねえ。昨日、成瀬課長がフロアに来てたんでしょ?」
「そうそう! 珍しいよね。でも、めちゃくちゃカッコよかったぁ」
「あのセクハラ部長が、左遷された時もフロアに来てたじゃない? 今回も何かあるのかもって噂……」
「異動があるって事?」
「わかんないけどね。にしても、あの“クール王子”の笑った顔って、一度でいいから見てみたいよね」
「きっと、二人きりの時だけ見せる、甘い秘密なんだよ」
きゃーという悲鳴にも似た声と共に、女性社員達は足取りも軽く出て行った。
真理子は「ふーん」と鼻を鳴らす。
若くして人事部課長になった成瀬は、目を見張るほどのイケメンで、社内外関係なくファンが多い。
事実、真理子も初めて成瀬を見た時は、そのイケメンぶりに、つい両手を合わせて拝みたくなったほどだ。
アタックしようとする女性社員も多いが、大抵が門前払いをくらう。
というのも、成瀬は“クール王子”と陰で呼ばれるほど、一切笑顔を見せた事がないのだ。
常に冷静沈着、感情を表に出さず、他者とも関わらないため、プライベートは謎に包まれている。
眼鏡の奥の素顔は見せない、まさにミステリアスな氷の彫刻のようだ。
――そりゃ、私だってお近づきになりたいけどさ。遠くから眺めるのが精一杯……。
真理子はため息交じりにタイムカードを押すと、フロアの一番奥、システム部のデスクに向かった。