成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 業務的にしょうがないとは言え、こんな奥に押し込められているから、恋にも縁遠くなるのではないかと、恨めしく自分のデスクを見つめた。
 するとどこからか「成瀬課長だ……」という声が聞こえる。
 成瀬は打ち合わせなのか、奥の会議室の方へ向かっていた。
 一瞬、成瀬の冷めた瞳が真理子を見た気がしたが、無表情のまま通り過ぎる。

「部署異動があるかもって話、本当なんですかね?」

 遅れて入ってきた卓也が、真理子にそっと耳打ちした。

「どうなんだろ?」

 真理子は首を傾げながら、上司のシステム部長の顔を伺う。
 部長は、ぽよんとしたお腹を撫でながら、大黒様のような笑顔でパソコン画面を覗き込んでいた。


「あーあ。俺、異動希望出そうかなぁ。元々は営業志望だったんですよねぇ」
「ばか! 部長に聞こえるでしょうが」

 真理子は慌てて、卓也のデスクを指で叩く。

「だって、俺経験ないのに、何でシステムなんですか? 地味だし、イメージ暗いし、デスクは端っこだし」

 真理子は一瞬、頷きそうになる自分に慌てて首を振った。
 すると、システム部長のにんまりとした笑顔が、目線の端に映る。

「システムは~社員のみんなの~世話係~ってな」

 真理子は部長の言葉に肩をすくめると、勢いよく卓也を振り返った。

「そういうこと! わかった? 新人」
「うわ……。真理子さんの性格にピッタリですわ」

 卓也はとほほと、両手を上げる。

「水木さーん。パソコンの調子悪いんだよね。見てくれる?」

 フロアの奥から真理子を呼ぶ声が聞こえた。

「はーい!」

 真理子はハネた髪の毛を後ろで一つに結ぶと、颯爽とフロア内を駆けて行った。
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