成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
面談の日
それから数日後、真理子の人事考課の面談日がやってきた。
扉が閉じられた会議室の前で、椅子に座って順番を待つ。
だいぶ時間が過ぎた頃、中から頬をピンクに染めた女性社員が出てきた。
「お疲れ様です」
小さく挨拶すると、女性社員はそっと真理子に駆け寄った。
「面談の相手が、成瀬課長なんて、私たち本当にラッキーだよね。こっそりアドレス渡しちゃった」
彼女はクスッと肩をすくめると、スキップでもするようにフロアに戻っていく。
「積極的……」
真理子は呆気に取られながら、その背中を見送ると、気を取り直して扉をノックした。
「どうぞ」
中から聞き慣れた低い声が響き、真理子は緊張しながら会議室へと入る。
真理子の顔を見た途端、成瀬の瞳がわずかに揺れた気がしたが、すぐにクールな表情に戻った。
真理子はどぎまぎしながら、椅子の背を引く。
ゆっくりと腰かけようとしたその時、突然後ろの扉がノックと同時に開かれ、真理子はビクッとして立ったまま扉を振り返った。
「部長? どうされたんですか……?」
突然入ってきた人影に、成瀬も若干の動揺の色を見せている。
硬い表情で入ってきた人事部長の後ろから、姿を現したのは専務と常務だった。
「成瀬くん、貴重な面談の時間にすまんね。それと、システム部の水木くん……だったかな?」
専務はだみ声でそう言うと、いやらしい目つきで真理子を眺めている。
真理子は瞬時に嫌な予感がし、そっと成瀬に視線を送った。
成瀬はチラッと真理子を見たが、すぐに専務に視線を戻す。
「何か御用でしょうか?」
表情を変えない成瀬に、専務は「ふん」と鼻を鳴らすと、腕組みをしながらドカッと椅子に腰かけた。
「いやね、私だって成瀬くんのことは、買っている訳だよ。ただねぇ。こんなものが社内に出回ったんじゃ、適切な評価がなされているのか気になってね。人事部長と常務にも同席願って、詳しく話を聞こうと思ってね」
専務はそう言うと、一枚の紙を机の上に出し、トントンと手で叩いた。
真理子は紙を覗き込んだ瞬間、全身の血の気がサッと引いていくのを感じる。
――あの写真だ……。
そこには、パークで橋本に取られた写真と共に、大きな文字が躍っている。
“クール王子 成瀬課長が社内不倫!?”
“手を出した女性社員に、子供の面倒まで!?”
そこには、成瀬が妻子持ちであることを会社に隠していた上、不倫しているという内容が、スキャンダラスに書かれていた。
「こんな書き方するなんて……ひどすぎる」
真理子は思わず口元を手で覆う。
「ここに書かれていることは、全てデタラメです。事実ではありません」
成瀬は紙を手に取り内容を確認すると、再度専務の元へと戻して言った。
「ほう。どこが事実と違うと言うのかね?」
専務はいやらしく口元を引き上げている。
「まず、私は妻子持ちではありません。この子は、友人の子供です。水木さんとも、ここに書かれているような関係ではなく、手伝いをお願いしただけです」
扉が閉じられた会議室の前で、椅子に座って順番を待つ。
だいぶ時間が過ぎた頃、中から頬をピンクに染めた女性社員が出てきた。
「お疲れ様です」
小さく挨拶すると、女性社員はそっと真理子に駆け寄った。
「面談の相手が、成瀬課長なんて、私たち本当にラッキーだよね。こっそりアドレス渡しちゃった」
彼女はクスッと肩をすくめると、スキップでもするようにフロアに戻っていく。
「積極的……」
真理子は呆気に取られながら、その背中を見送ると、気を取り直して扉をノックした。
「どうぞ」
中から聞き慣れた低い声が響き、真理子は緊張しながら会議室へと入る。
真理子の顔を見た途端、成瀬の瞳がわずかに揺れた気がしたが、すぐにクールな表情に戻った。
真理子はどぎまぎしながら、椅子の背を引く。
ゆっくりと腰かけようとしたその時、突然後ろの扉がノックと同時に開かれ、真理子はビクッとして立ったまま扉を振り返った。
「部長? どうされたんですか……?」
突然入ってきた人影に、成瀬も若干の動揺の色を見せている。
硬い表情で入ってきた人事部長の後ろから、姿を現したのは専務と常務だった。
「成瀬くん、貴重な面談の時間にすまんね。それと、システム部の水木くん……だったかな?」
専務はだみ声でそう言うと、いやらしい目つきで真理子を眺めている。
真理子は瞬時に嫌な予感がし、そっと成瀬に視線を送った。
成瀬はチラッと真理子を見たが、すぐに専務に視線を戻す。
「何か御用でしょうか?」
表情を変えない成瀬に、専務は「ふん」と鼻を鳴らすと、腕組みをしながらドカッと椅子に腰かけた。
「いやね、私だって成瀬くんのことは、買っている訳だよ。ただねぇ。こんなものが社内に出回ったんじゃ、適切な評価がなされているのか気になってね。人事部長と常務にも同席願って、詳しく話を聞こうと思ってね」
専務はそう言うと、一枚の紙を机の上に出し、トントンと手で叩いた。
真理子は紙を覗き込んだ瞬間、全身の血の気がサッと引いていくのを感じる。
――あの写真だ……。
そこには、パークで橋本に取られた写真と共に、大きな文字が躍っている。
“クール王子 成瀬課長が社内不倫!?”
“手を出した女性社員に、子供の面倒まで!?”
そこには、成瀬が妻子持ちであることを会社に隠していた上、不倫しているという内容が、スキャンダラスに書かれていた。
「こんな書き方するなんて……ひどすぎる」
真理子は思わず口元を手で覆う。
「ここに書かれていることは、全てデタラメです。事実ではありません」
成瀬は紙を手に取り内容を確認すると、再度専務の元へと戻して言った。
「ほう。どこが事実と違うと言うのかね?」
専務はいやらしく口元を引き上げている。
「まず、私は妻子持ちではありません。この子は、友人の子供です。水木さんとも、ここに書かれているような関係ではなく、手伝いをお願いしただけです」