成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
真理子はわかってはいるものの、成瀬の言葉に少しだけ胸がチクっとする。
――そういう関係じゃないって、くぎを刺されたみたいな気分……。
専務は「そうか、そうか」とわざとらしく声を上げると、大きくうなずいた。
「友人の子供を遊びに連れて行っていたのか。それは感心なことだ。ご友人もさぞかし感謝されているだろうねぇ。それにしても、随分と親しげじゃないか。この写真はまるで家族だよ」
専務はじろっと、威圧的な目で成瀬の顔を見上げる。
「よほど親しい関係の、友人なんだろうね」
専務の言葉に、成瀬の耳がピクリと動いた。
「それはプライベートなことですので、お答えする必要はないかと」
あくまで冷静に答える成瀬に、専務は笑い声を立てる。
「ただね、成瀬くん。ここに書かれた内容が事実でなかったとしても、こんな週刊誌の見出しのようなものが、社内にバラまかれたとあってはね。こちらも捨て置けんのだよ」
専務の言葉に、真理子は思わず「え!?」と声を上げる。
まさか、自分と成瀬が不在の時を狙ったかのように、あの写真がバラまかれているとは思いもしなかった。
「そう、君も災難だったなぁ。今、フロア内は大騒ぎになっとるぞ」
目を細める専務の様子を見ながら、真理子は目眩がしてふらふらと机に寄り掛かった。
その様子を見て、成瀬が咄嗟に駆け寄り、真理子の身体を支える。
「成瀬くん。君は本当に騎士だねぇ。彼女のことも、この友人の事も庇おうというのか」
専務は秘書と目を合わせると、あざ笑うかのように肩を揺らした。
そしてチラッと常務に顔を向ける。
「常務は、ご存じだったのでは?」
専務の声に、真理子は驚いて目を丸くすると、思わず常務の顔を振り返る。
常務は静かに目を閉じたまま動かない。
――どういう事? なんで常務が関係あるの……?
真理子は何が起こっているのか、訳が分からなくなっていた。
何も答えない常務の様子に、専務は再び「ふん」と鼻を鳴らす。
「まあ、いいだろう。せいぜい自分たちで、社内を騒がせた後始末をつけるんだな。私は高みの見物とさせてもらうよ」
専務はそう言い捨てると、大きな音を立てて扉を開け、会議室を後にした。
「と、柊……成瀬課長……」
真理子は慌てて言い直すと、成瀬の顔を見上げる。
成瀬は一旦目を閉じると、深く息を吐いた。
「成瀬。突然専務に呼ばれてここへ来たんだが、これはいったいどういう事なんだ!?」
人事部長も、状況が全くわからないという顔をする。
成瀬はパークで起こった出来事を、常務と部長に説明した。
「内容からして、このビラを作ったのは橋本さんでしょう。目的は私の地位を貶めること。ただ、専務の意図は違うような気がしました……」
成瀬はそう言いながら、チラッと常務の顔を伺う。
常務は白髪の頭に手をやると、曲がっている腰をトントンと叩きながら大きく伸びをした。
そして、人の好さそうな笑顔でゆっくりと真理子たちの顔を見る。
「さぁ、フロアに戻ろうか」
常務の言葉に、三人は「え!?」と顔を見合わせた。
「ですが常務。今フロアに戻れば、水木さんは針の筵です」
慌てた声を出す成瀬に、常務は小さく笑い声をあげた。
「珍しいね。成瀬くんが、そんな顔をするのは。よほど相性がいいパートナーなのかな」
常務は真理子を見ると、そっとウインクする。
「えっ!? なんで、そのことを!?」
真理子は驚いて、常務の顔を見つめたまま固まってしまう。
常務は真理子にほほ笑みを向けたまま、口を開いた。
「専務の目的は私にもわからないんだよ。ただね、ここで社内を混乱させるわけにはいかない。分断させるわけにはいかないんだ」
常務はそう言うと、ゆっくりとそれぞれの顔を眺める。
――そういう関係じゃないって、くぎを刺されたみたいな気分……。
専務は「そうか、そうか」とわざとらしく声を上げると、大きくうなずいた。
「友人の子供を遊びに連れて行っていたのか。それは感心なことだ。ご友人もさぞかし感謝されているだろうねぇ。それにしても、随分と親しげじゃないか。この写真はまるで家族だよ」
専務はじろっと、威圧的な目で成瀬の顔を見上げる。
「よほど親しい関係の、友人なんだろうね」
専務の言葉に、成瀬の耳がピクリと動いた。
「それはプライベートなことですので、お答えする必要はないかと」
あくまで冷静に答える成瀬に、専務は笑い声を立てる。
「ただね、成瀬くん。ここに書かれた内容が事実でなかったとしても、こんな週刊誌の見出しのようなものが、社内にバラまかれたとあってはね。こちらも捨て置けんのだよ」
専務の言葉に、真理子は思わず「え!?」と声を上げる。
まさか、自分と成瀬が不在の時を狙ったかのように、あの写真がバラまかれているとは思いもしなかった。
「そう、君も災難だったなぁ。今、フロア内は大騒ぎになっとるぞ」
目を細める専務の様子を見ながら、真理子は目眩がしてふらふらと机に寄り掛かった。
その様子を見て、成瀬が咄嗟に駆け寄り、真理子の身体を支える。
「成瀬くん。君は本当に騎士だねぇ。彼女のことも、この友人の事も庇おうというのか」
専務は秘書と目を合わせると、あざ笑うかのように肩を揺らした。
そしてチラッと常務に顔を向ける。
「常務は、ご存じだったのでは?」
専務の声に、真理子は驚いて目を丸くすると、思わず常務の顔を振り返る。
常務は静かに目を閉じたまま動かない。
――どういう事? なんで常務が関係あるの……?
真理子は何が起こっているのか、訳が分からなくなっていた。
何も答えない常務の様子に、専務は再び「ふん」と鼻を鳴らす。
「まあ、いいだろう。せいぜい自分たちで、社内を騒がせた後始末をつけるんだな。私は高みの見物とさせてもらうよ」
専務はそう言い捨てると、大きな音を立てて扉を開け、会議室を後にした。
「と、柊……成瀬課長……」
真理子は慌てて言い直すと、成瀬の顔を見上げる。
成瀬は一旦目を閉じると、深く息を吐いた。
「成瀬。突然専務に呼ばれてここへ来たんだが、これはいったいどういう事なんだ!?」
人事部長も、状況が全くわからないという顔をする。
成瀬はパークで起こった出来事を、常務と部長に説明した。
「内容からして、このビラを作ったのは橋本さんでしょう。目的は私の地位を貶めること。ただ、専務の意図は違うような気がしました……」
成瀬はそう言いながら、チラッと常務の顔を伺う。
常務は白髪の頭に手をやると、曲がっている腰をトントンと叩きながら大きく伸びをした。
そして、人の好さそうな笑顔でゆっくりと真理子たちの顔を見る。
「さぁ、フロアに戻ろうか」
常務の言葉に、三人は「え!?」と顔を見合わせた。
「ですが常務。今フロアに戻れば、水木さんは針の筵です」
慌てた声を出す成瀬に、常務は小さく笑い声をあげた。
「珍しいね。成瀬くんが、そんな顔をするのは。よほど相性がいいパートナーなのかな」
常務は真理子を見ると、そっとウインクする。
「えっ!? なんで、そのことを!?」
真理子は驚いて、常務の顔を見つめたまま固まってしまう。
常務は真理子にほほ笑みを向けたまま、口を開いた。
「専務の目的は私にもわからないんだよ。ただね、ここで社内を混乱させるわけにはいかない。分断させるわけにはいかないんだ」
常務はそう言うと、ゆっくりとそれぞれの顔を眺める。