成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
真理子は今にも泣きそうになるのを堪え、ぎゅっと両手を握る。
常務が、近くのデスクに置いてあるビラを手に取った。
「皆さんが見ているこのビラだがね。誰かが配ったものかな?」
常務の問いかけに、近くにいた社員数名が顔を見合わせている。
「あの……。会社のポストに入ってたみたいです。誰かが騒ぎ出して、みんなが手に取りました」
「ふむ。それでこの騒ぎか」
常務は顎に手を当てると、一旦考えるような仕草をしてから顔を上げた。
「まずは言っておこう。ここに書かれた内容は、真っ赤な嘘だ。安心しておくれ。成瀬くんは、れっきとした独身だよ」
笑いながら言う常務の姿に、キャーという悲鳴に似た叫びに交じって、安堵の声が漏れ聞こえる。
「でも……この写真は、成瀬課長と真理子さんですよね? この子は? お二人は……どういう関係なんですか!?」
フロアの奥から、顔をこわばらせた卓也の追及するような声が響いた。
「それは……」
成瀬が何か話そうと声を出した時、ガチャリと音を響かせて入り口の扉が開いた。
「それは、僕から説明します」
後ろから澄んだ声が聞こえ、真理子は入ってきた人物を見て目を丸くする。
「社長……?」
社長はゆっくりと歩いてくると、真理子に笑顔を向けた。
そしてそのまま、成瀬の肩にポンと手をかけながら通り過ぎると、常務の隣へ立つ。
「その写真に写っている子は、僕の一人娘です。皆さんには言っていなかったのですが、僕はシングルなんですよ。忙しい社長業と子育ての両立は難しく、成瀬課長と水木さんにサポートをお願いしていました。それがまさか、こんな誤解を生んでしまうとは。本当に申し訳ないと思っています」
頭を深々と下げる社長の様子に、フロアにいる社員は外ならず、真理子も呆気に取られる。
成瀬の顔を見上げると、成瀬も驚いた様子で社長の顔を見つめていた。
「本来なら、もっとちゃんとした形で皆さんに公表すべきだったんです。今回の騒動の報告を受けて、僕も反省しました。僕自身が社員に秘密を持っているようでは、皆さんの信頼は得られなくて当然です」
社長はぐるりとフロア内を見回した。
「僕はまだまだこの会社を、社員の皆さんと一緒に成長させていきたいんです。今回のこの騒動は、犯人探しや詮索などはせず、ビラを捨てることで収めてもらえないでしょうか」
しばらくして、困惑していたフロア内は、どこからともなく、ぽつぽつと拍手が聞こえだす。
その内に、それは社長の言葉への賛同のように沸き起こった。
社長は笑顔で振り返ると、成瀬と真理子の顔を見つめる。
真理子はほっとして、社長に小さく頭を下げた。
すると、ひそひそと話をしていた秘書課の女性社員が数名、そろそろと成瀬に歩み寄る。
常務が、近くのデスクに置いてあるビラを手に取った。
「皆さんが見ているこのビラだがね。誰かが配ったものかな?」
常務の問いかけに、近くにいた社員数名が顔を見合わせている。
「あの……。会社のポストに入ってたみたいです。誰かが騒ぎ出して、みんなが手に取りました」
「ふむ。それでこの騒ぎか」
常務は顎に手を当てると、一旦考えるような仕草をしてから顔を上げた。
「まずは言っておこう。ここに書かれた内容は、真っ赤な嘘だ。安心しておくれ。成瀬くんは、れっきとした独身だよ」
笑いながら言う常務の姿に、キャーという悲鳴に似た叫びに交じって、安堵の声が漏れ聞こえる。
「でも……この写真は、成瀬課長と真理子さんですよね? この子は? お二人は……どういう関係なんですか!?」
フロアの奥から、顔をこわばらせた卓也の追及するような声が響いた。
「それは……」
成瀬が何か話そうと声を出した時、ガチャリと音を響かせて入り口の扉が開いた。
「それは、僕から説明します」
後ろから澄んだ声が聞こえ、真理子は入ってきた人物を見て目を丸くする。
「社長……?」
社長はゆっくりと歩いてくると、真理子に笑顔を向けた。
そしてそのまま、成瀬の肩にポンと手をかけながら通り過ぎると、常務の隣へ立つ。
「その写真に写っている子は、僕の一人娘です。皆さんには言っていなかったのですが、僕はシングルなんですよ。忙しい社長業と子育ての両立は難しく、成瀬課長と水木さんにサポートをお願いしていました。それがまさか、こんな誤解を生んでしまうとは。本当に申し訳ないと思っています」
頭を深々と下げる社長の様子に、フロアにいる社員は外ならず、真理子も呆気に取られる。
成瀬の顔を見上げると、成瀬も驚いた様子で社長の顔を見つめていた。
「本来なら、もっとちゃんとした形で皆さんに公表すべきだったんです。今回の騒動の報告を受けて、僕も反省しました。僕自身が社員に秘密を持っているようでは、皆さんの信頼は得られなくて当然です」
社長はぐるりとフロア内を見回した。
「僕はまだまだこの会社を、社員の皆さんと一緒に成長させていきたいんです。今回のこの騒動は、犯人探しや詮索などはせず、ビラを捨てることで収めてもらえないでしょうか」
しばらくして、困惑していたフロア内は、どこからともなく、ぽつぽつと拍手が聞こえだす。
その内に、それは社長の言葉への賛同のように沸き起こった。
社長は笑顔で振り返ると、成瀬と真理子の顔を見つめる。
真理子はほっとして、社長に小さく頭を下げた。
すると、ひそひそと話をしていた秘書課の女性社員が数名、そろそろと成瀬に歩み寄る。