成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「なにをごちゃごちゃ言っとるんだ! 二人して、なんだその目は! 付き合ってられんな」

 専務が入り口の方に足を踏みだすのを見て、真理子は再び専務の前に立ちはだかった。

「乃菜ちゃんはとても素直で明るくて、心の優しい女の子です。パパの仕事が多忙なことも、私たちが仕事の後にサポートしていることも、全て理解していてわがまま一つ言わない、とても聡明な女の子です」

 真理子はそこまで言うと、一旦ぐっと目を閉じる。
 瞼の裏に、笑顔で駆け寄ってくる乃菜の姿が浮かんだ。

 ――柊馬さんが、心から大切に思っている乃菜ちゃんの名誉を、私が守るんだ。

 真理子は、握りしめた拳に力を込めると、顔を上げまっすぐに専務を見つめた。

「乃菜ちゃんは、まだ小さい。きっと甘えたい事もあるでしょう。それでも、その小さな身体で必死に頑張っているんです。だから……そんなことも知らない人に、乃菜ちゃんを否定するようなことは、決して言って欲しくありません!」

 真理子の力強い声は、フロア内に響き渡る。
 専務は真理子の勢いに気圧され、しばし呆然としていた。

「真理子ちゃん……」

 社長のつぶやくような声が聞こえた時、じっと事の成り行きを見ていた常務が、真理子と専務の間に割って入る。

「専務。少し口が過ぎるのでは?」

 その声に、専務ははっと我に返ると、顔を真っ赤にして肩を怒らせた。

「まったく、くだらん味方をつけたもんだ。だが、私は社長のやり方には、断固反対しますからな」

 専務は社長に向かって、そう吐き捨てると、足を鳴らしてフロアを後にした。

 バタンと扉の閉じる音が響く。
 その途端、真理子は急に力が抜けたように、へなへなと床に座り込んだ。

「おい。大丈夫か?」

 成瀬が慌てて、真理子の側に駆け寄り肩を支えた。
 すると真理子は、この世の終わりかと思うような顔で成瀬を見上げる。

「柊馬さん。どうしましょう……。私、やっちゃいました……」

 真理子は、最大限に口をへの字にしている。

「全く、お前は……」

 成瀬はホッとした顔をすると、眼鏡を外しながら肩を揺らして笑い出した。

「え!? 柊馬さん。ここ、社内ですよ!」

 真理子はぎょっとした顔をすると、慌てて成瀬の耳元に手を当てる。

「あぁ。そうだったな。本当に、お前といると調子が狂う……」

 成瀬は笑いながらそう言うと、真理子の頭をわしわしと力いっぱいに撫でた。

「だから、みんなが見てますって……。それに、私は子供じゃありませんってば」

 真理子は顔を真っ赤にしながら、身体をのけぞらせる。

「どうだか……」

 成瀬はいつになく優しい声を出した。
 すると拳を握りしめて、耐えるように立っていた社長が、すっと二人の元にしゃがみ込んだ。

「二人とも……ありがとう。乃菜を守ってくれて、本当にありがとう」

 社長は、成瀬と真理子の肩を抱き、何度も何度も揺すっている。
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