成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 真理子がふと見上げると、社長の瞳には今にも溢れそうなほどの涙が溜まっていた。
 しばらくして、静まり返っていたフロア内に、ぽつぽつと拍手が聞こえだした。
 そしてそれは、さっきよりも大きな拍手となって真理子たちを包み込んだ。

「よかった……」

 真理子はホッとした声を出し、隣の成瀬と社長の顔を見上げた。
 二人とも、ほほ笑みながら真理子を見つめている。

「さぁさぁ。みんな、業務に戻ろう……」

 すると常務が手を叩きながら声を出し、真理子もゆっくりと立ち上がった。
 ふと常務の顔を振り返ると、その頬には涙のすじがいくつも重なって見えていた。



 バンっと専務室の扉が大きく開かれた。

「あいつら! この私に盾突きおって」

 専務は足を鳴らしながら部屋に入ると、デスクの上にビラの束を叩きつける。

「おやおや。荒れてらっしゃいますねぇ」

 いやらしい目を向けながらそう言ったのは、橋本だった。
 橋本は、専務室のソファに深く腰掛けると、膝に手をついて上目遣いで専務を見上げる。

「思惑が外れましたねぇ。まさか、あんな下っ端社員に噛みつかれるとは……」

 嫌味ったらしく肩を揺らす橋本に、専務は「ふん」と鼻を鳴らした。
 そして、ジロリと鋭い視線を送る。

「お前が持ち込んだこの写真で、徐々に追い詰めようと思っていたが、手間が省けただけの話だ」
「と、言いますと?」
「子供の存在を知り、お涙頂戴で社長側につく奴もいるだろう。だが必ず、不満は募る。その(ほころ)びを突けばいいだけだ。あの若造……いつか必ず蹴落としてくれる」

 専務は手のひらに拳を突き立てた。

「おぉ。専務に睨まれたら、ひとたまりもありませんねぇ。それにしても元々、社長の椅子は専務に約束されたものでしたのに」

 専務は、橋本の言葉に顔を背けると、ドカッと椅子に腰を下ろした。

「まぁいいさ。次の手は考えてある……。お前にも、また動いてもらうぞ」
「なんなりと……」

 腕を組みながら横目で目をやる専務に、橋本はにやついた顔でうなずいた。
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