成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
トマトとスライスした玉ねぎ、黄色いパプリカにツナを入れて、酢と砂糖で和える。
色鮮やかな一品に、食卓がパッと華やいだのを思い出す。
『簡単だけど、美味いだろ?』
成瀬は得意げにそう言いながら、真理子の口の中にトマトをぽんっと入れたのだった。
真理子は容器の蓋を開けると、小皿に取り出しひとくち口元に運ぶ。
――柊馬さんの味だ……。
真理子は振り返ると、きれいに掃除された部屋の中を見渡した。
付箋のついたレシピブック、丁寧にたたまれたタオル、整頓された乃菜のスケッチブック、カレンダーに書き込まれたスケジュール……。
この部屋には、成瀬の存在が刻まれている。
――柊馬さんは、今までの長い時間、何を思ってこの部屋で過ごしてたんだろう……。
真理子は潤んでくる瞳を感じながら、必死にキッチンに向かった。
夕飯の準備が一通り終わった頃、ガチャリと玄関が開く音が聞こえた。
「あ! パパだぁ」
乃菜が叫んで玄関に走って行く。
「え!? 社長!?」
真理子は驚いた声を上げると、慌ててフライパンを置きスイッチを切る。
この部屋で社長に会うのは初めてだ。
どんな顔をして出迎えればいいのか、真理子は戸惑ったまま玄関に向かった。
「パパおかえりなさい。きょうはね、ハンバーグだよ」
乃菜は溢れんばかりの笑顔で、社長に抱きついている。
初めて見る、乃菜と父親の顔をした社長の姿に、真理子はおずおずと近寄った。
「真理子ちゃん」
顔を上げた社長が、真理子に笑顔を見せる。
「あの、えっと。おかえりなさい……」
真理子は頬を赤らめながら声を出した。
「ただいま。……やっぱり、いいもんだね」
社長はそうつぶやくと、不思議そうな顔をする真理子に優しく微笑んだ。
しばらく見つめ合う二人を、乃菜が嬉しそうに見上げている。
「ご、ご飯にしましょうか……?」
真理子は社長が醸し出す雰囲気に戸惑い、慌てて目線を逸らした。
「のなね、お絵かきして、せんせいにほめられたんだよ」
乃菜はいつにも増して、楽しそうに話をしている。
「そうかぁ。乃菜はすごいね。やっぱりパパの子だなぁ」
社長は夕食に出した赤ワインで、ほんのりピンクになった目元をさらに下げながら言った。
――乃菜ちゃん、柊馬さんと一緒にいる時も楽しそうだっけど、やっぱりパパは別格なんだな。
真理子はそんな二人の様子を、微笑ましく見ていた。
「どんなに疲れて帰ってきても、乃菜の顔を見るとほっとするよね」
社長はワイングラスを傾けながら、一人で遊んでいる乃菜を見つめている。
片づけを終えた真理子は、小さく切ったクリームチーズとオリーブを和えて皿に盛ると、そっとテーブルに置いた。
「でも今日は、真理子ちゃんがいてくれたから特別かな。いつもは柊馬の仏頂面しか見てないからね」
真理子は、あははと楽しそうに笑う社長にはにかみながら、正面に腰かけた。
色鮮やかな一品に、食卓がパッと華やいだのを思い出す。
『簡単だけど、美味いだろ?』
成瀬は得意げにそう言いながら、真理子の口の中にトマトをぽんっと入れたのだった。
真理子は容器の蓋を開けると、小皿に取り出しひとくち口元に運ぶ。
――柊馬さんの味だ……。
真理子は振り返ると、きれいに掃除された部屋の中を見渡した。
付箋のついたレシピブック、丁寧にたたまれたタオル、整頓された乃菜のスケッチブック、カレンダーに書き込まれたスケジュール……。
この部屋には、成瀬の存在が刻まれている。
――柊馬さんは、今までの長い時間、何を思ってこの部屋で過ごしてたんだろう……。
真理子は潤んでくる瞳を感じながら、必死にキッチンに向かった。
夕飯の準備が一通り終わった頃、ガチャリと玄関が開く音が聞こえた。
「あ! パパだぁ」
乃菜が叫んで玄関に走って行く。
「え!? 社長!?」
真理子は驚いた声を上げると、慌ててフライパンを置きスイッチを切る。
この部屋で社長に会うのは初めてだ。
どんな顔をして出迎えればいいのか、真理子は戸惑ったまま玄関に向かった。
「パパおかえりなさい。きょうはね、ハンバーグだよ」
乃菜は溢れんばかりの笑顔で、社長に抱きついている。
初めて見る、乃菜と父親の顔をした社長の姿に、真理子はおずおずと近寄った。
「真理子ちゃん」
顔を上げた社長が、真理子に笑顔を見せる。
「あの、えっと。おかえりなさい……」
真理子は頬を赤らめながら声を出した。
「ただいま。……やっぱり、いいもんだね」
社長はそうつぶやくと、不思議そうな顔をする真理子に優しく微笑んだ。
しばらく見つめ合う二人を、乃菜が嬉しそうに見上げている。
「ご、ご飯にしましょうか……?」
真理子は社長が醸し出す雰囲気に戸惑い、慌てて目線を逸らした。
「のなね、お絵かきして、せんせいにほめられたんだよ」
乃菜はいつにも増して、楽しそうに話をしている。
「そうかぁ。乃菜はすごいね。やっぱりパパの子だなぁ」
社長は夕食に出した赤ワインで、ほんのりピンクになった目元をさらに下げながら言った。
――乃菜ちゃん、柊馬さんと一緒にいる時も楽しそうだっけど、やっぱりパパは別格なんだな。
真理子はそんな二人の様子を、微笑ましく見ていた。
「どんなに疲れて帰ってきても、乃菜の顔を見るとほっとするよね」
社長はワイングラスを傾けながら、一人で遊んでいる乃菜を見つめている。
片づけを終えた真理子は、小さく切ったクリームチーズとオリーブを和えて皿に盛ると、そっとテーブルに置いた。
「でも今日は、真理子ちゃんがいてくれたから特別かな。いつもは柊馬の仏頂面しか見てないからね」
真理子は、あははと楽しそうに笑う社長にはにかみながら、正面に腰かけた。