成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「水木くん。至急、社長室まで行って」

 部長は焦った様子でそれだけ言うと、受話器を落としそうな勢いで電話機に戻す。

「え? 何かあったんですか?」

 真理子は状況がつかめず首を傾げた。

「至急、調査が必要なものが出てきたみたいなんだ。今抱えている業務は、全部こっちで引き継ぐから。しばらくは缶詰になるかも知れないな……」

 普段はだるまのように、穏やかさを絵に書いたような部長の焦った様子に、ただならぬ状況だという事だけは理解できた。

「わ、わかりました」

 真理子は慌ててメモ用紙を掴むと、勢いよく立ち上がった。

「ちょっと行ってくるね」

 隣の卓也に声をかけた真理子は、通り過ぎながら横目に映った卓也の姿に、思わず足を止める。
 卓也は今にも倒れそうな程、顔面蒼白で怯えるようにうつむいていた。

「卓也くん?」

 急いで近寄る真理子に、卓也はビクッと身体をのけ反らせる。

「早く行ってください!」

 卓也の大きな声に、フロア内が一瞬静まり返った。

「わ、わかった……」

 真理子はそれだけ言うと、みんなの視線を感じながら社長室へと向かう。

「一体、何があったっていうの……」

 真理子は不安で押しつぶされそうになりながら、ぐっと両手を胸の前で握った。

 エレベーターを降りると、はぁはぁと息を切らしながら、社長室の扉の前で立ち止まる。
 一旦呼吸を整えてから、静かに扉をノックした。
 ガチャリと音を立てて扉が開くと、中にいたみんなが一斉に真理子を振り返る。
 真理子は、一番扉の近くに立っていた成瀬と目が合った。

 あの夜以来、久しぶりに見た成瀬の顔に、真理子はぱっと慌てて下を向く。
 その様子を、静かに社長がデスクから見ている。

「中に……」

 成瀬に促され、真理子は緊張した顔つきのまま、閉じた扉の前に立った。
 そっと顔を上げると、室内には他に常務がおり、真理子を含め全部で四人。

 ――ここに私が呼ばれるって、どういう事……? まさか乃菜ちゃんに何かあったの!?

 真理子はドキドキと早くなる心臓を感じながら、話が進むのを待った。
 社長はデスクの上で手を組みながら、じっと目を閉じている。

「水木さんが来たので、もう一度、状況を……」

 成瀬の低く厳しい声が室内に響いた時、社長が目を開けてゆっくりと立ち上がった。

「柊馬。このメンバーだ。堅苦しい態度は抜きにして、スピード感重視で頼む」
「わかった」

 社長の声に成瀬はうなずくと、ソファの前のテーブルに一枚の紙を広げる。
 真理子達はソファに腰かけ、その用紙を覗き込んだ。

 ――良かった。乃菜ちゃんの事じゃないみたい。

 内容をサッと見た真理子は、少しだけホッとする。
 そこには見知った新聞社の名前と、電話番号、事の状況などが記載されていた。

「端的に説明すると、今日、新聞社を名乗る男から、代表電話に連絡が入った。内容は『サワイライトの顧客情報がWEBサイト上で閲覧可能になっている』というもの」
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