成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「常務は社内の動きに、注視してもらえますか? この事はしばらく社内には隠しておきたい。特に、専務には知られたくない」
「うむ。そちらは任せておくれ」
「では……」

 打ち合わせは手短に終了し、それぞれが立ち上がった。
 真理子は急いで社長のデスクに向かう。
 自分のデスクの三倍はあろうかという、重みのある机にいわゆる社長椅子。
 真理子は一瞬ひるんで、座って良いものか躊躇(ためら)ってしまった。

「そんなに緊張しないでよ。パソコンの中身は一緒でしょ」

 すると真理子の動揺を感じ取ったのか、社長がウインクしながら茶目っ気たっぷりにほほ笑んだ。
 そして真理子の両肩を支えるように、椅子に座らせる。

「な、なんだか、急に偉くなった気分です……」
「どうぞ、好きなだけ自由に使って。真理子ちゃんなら大歓迎」

 照れる真理子の肩を抱いたまま、社長は笑い声をあげマウスを操作した。

「これで作業できるかな。急ぎで悪いけど、真理子ちゃんだけが頼りなんだ」
「はい。すぐに調べます……」

 社長に顔を覗き込まれ、真理子は慌ててうつむく様に答えた。
 成瀬はそんな二人の様子を、さっきから静かに見ている。

 ――なんか、今日の社長、距離感が近いよね……? 柊馬さんも見てるのに。

 成瀬の視線に気まずさを感じていると、社長がさらに真理子の耳元に顔を近づけた。

「そうそう。家族ごっこの返事、待ってるからね」
「え……?」

 にっこりとほほ笑む社長を、真理子は目を丸くして見上げる。

「じゃあ、よろしくお願いね」

 社長は真理子の肩をポンポンと叩くと、デスクから離れて行った。
 真理子は社長の背中をじっと見送る。

 ――やっぱり、社長は本気ってこと……?

 真理子は、複雑な気持ちのまま目線を画面に戻すと、頬をパンパンと両手で叩く。

「とにかく今は、こっちに集中集中!」

 真理子はそうつぶやくと、マウスをぐっと握りしめた。
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