成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
押し込めた想い
真理子は画面を見つめながら首を傾げる。
WEBサーバーの公開フォルダには、怪しい形跡は一切残っていない。
「ただのデマを書き込んだってこと……?」
真理子が顎に手を当てながら考え込んでいると、隣のミーティングルームから成瀬と社長が姿を現した。
一瞬、二人の間に流れる空気に違和感を覚え、真理子はその場で立ち上がる。
「真理子ちゃん。どんな様子?」
社長の声は、特に変わった様子はない。
真理子は思い過ごしかと思いながら、そのまま小走りで二人に近寄った。
「はい。調べてみたんですが、公開フォルダには怪しい点は見つかりませんでした。今現在、フォルダ内に漏洩して困るようなデータは入っていません」
真理子の話に、社長は成瀬と目を合わすと、ほっとした様子を見せる。
その時、扉をノックする音が聞こえ、秘書の男性が顔を覗かせた。
「俺はそろそろ出なきゃいけないから、引き続き調査の方をお願いできるかな」
「はい」
うなずく真理子に笑顔を見せると、社長は成瀬を振り返る。
「柊馬、些細なことでも、逐一報告してくれ。とにかく、時間が勝負だと思った方がいいね」
「そうだな」
社長は上着を手に取ると、真理子の肩にそっと触れた。
「行ってくるね。また、連絡する」
社長に耳元でささやかれ、真理子は真っ赤になった耳をばっと押さえる。
「は、はい……。いってらっしゃい」
バタンと扉の閉じる音が響き、真理子は息をつきながら、隣に立つ成瀬の顔をそっと見上げた。
「しゃ、社長も距離感近いですよね……」
成瀬は何も答えずに真理子を背を向けると、デスクの後ろの大きな窓の前に立った。
「お前……明彦に何か言われたか?」
しばらくして、成瀬が小さく声を出す。
真理子はドキッとして、成瀬の背中を振り返った。
「あの……家族ごっこしようって、言われました。そこから本物になればいい、なんて」
真理子は、わざと明るい声を出しながら、成瀬の隣に立った。
「なーんか、告白なのかって、勘違いしちゃいますよね。社長が気軽にそんな事言ったらダメだって、柊馬さんからもきつく言っといてくださいよ」
あははと笑いながら話す真理子を、成瀬が静かに見つめている。
「いいと思うよ」
しばらくして成瀬がポツリとつぶやき、真理子は目を開いて振り返った。
「乃菜はお前の事、気に入ってるみたいだし……俺も安心して、家政婦を引退できるよ」
成瀬は淡々とそう言うと、真理子から目を逸らす。
真理子は成瀬の整った横顔を見つめながら、ぎゅっと両手を握りしめた。
「なんで、そんな事言うんですか? 乃菜ちゃんを守るのは、柊馬さんじゃないんですか?」
「え……?」
「それが、長い時間あそこで過ごしてきた柊馬さんが、守らなきゃいけない約束なんじゃないんですか!?」
瞳を潤ませながら肩を震わせる真理子を、成瀬は驚いたように見つめている。
「真理子……?」
成瀬の長い指が、真理子の頬に触れそうになった時、デスクの内線が大きな音を立てて鳴った。
二人はビクッとして電話を振り返る。
「常務からだ……」
番号を見てそう言うと、成瀬が静かに受話器を上げる。
すると、成瀬の顔が次第に緊張していくのがわかった。
真理子は慌てて駆け寄ると、電話口に顔を寄せた。
「……うちの情報漏洩の件が、匿名掲示板に書き込まれた?」
真理子は成瀬の声に、叫び出しそうになる口元を慌てて両手で覆う。
――どういう事!? 新聞社の次は、匿名掲示板!?
真理子は思わずその場に立ち尽くしていた。
WEBサーバーの公開フォルダには、怪しい形跡は一切残っていない。
「ただのデマを書き込んだってこと……?」
真理子が顎に手を当てながら考え込んでいると、隣のミーティングルームから成瀬と社長が姿を現した。
一瞬、二人の間に流れる空気に違和感を覚え、真理子はその場で立ち上がる。
「真理子ちゃん。どんな様子?」
社長の声は、特に変わった様子はない。
真理子は思い過ごしかと思いながら、そのまま小走りで二人に近寄った。
「はい。調べてみたんですが、公開フォルダには怪しい点は見つかりませんでした。今現在、フォルダ内に漏洩して困るようなデータは入っていません」
真理子の話に、社長は成瀬と目を合わすと、ほっとした様子を見せる。
その時、扉をノックする音が聞こえ、秘書の男性が顔を覗かせた。
「俺はそろそろ出なきゃいけないから、引き続き調査の方をお願いできるかな」
「はい」
うなずく真理子に笑顔を見せると、社長は成瀬を振り返る。
「柊馬、些細なことでも、逐一報告してくれ。とにかく、時間が勝負だと思った方がいいね」
「そうだな」
社長は上着を手に取ると、真理子の肩にそっと触れた。
「行ってくるね。また、連絡する」
社長に耳元でささやかれ、真理子は真っ赤になった耳をばっと押さえる。
「は、はい……。いってらっしゃい」
バタンと扉の閉じる音が響き、真理子は息をつきながら、隣に立つ成瀬の顔をそっと見上げた。
「しゃ、社長も距離感近いですよね……」
成瀬は何も答えずに真理子を背を向けると、デスクの後ろの大きな窓の前に立った。
「お前……明彦に何か言われたか?」
しばらくして、成瀬が小さく声を出す。
真理子はドキッとして、成瀬の背中を振り返った。
「あの……家族ごっこしようって、言われました。そこから本物になればいい、なんて」
真理子は、わざと明るい声を出しながら、成瀬の隣に立った。
「なーんか、告白なのかって、勘違いしちゃいますよね。社長が気軽にそんな事言ったらダメだって、柊馬さんからもきつく言っといてくださいよ」
あははと笑いながら話す真理子を、成瀬が静かに見つめている。
「いいと思うよ」
しばらくして成瀬がポツリとつぶやき、真理子は目を開いて振り返った。
「乃菜はお前の事、気に入ってるみたいだし……俺も安心して、家政婦を引退できるよ」
成瀬は淡々とそう言うと、真理子から目を逸らす。
真理子は成瀬の整った横顔を見つめながら、ぎゅっと両手を握りしめた。
「なんで、そんな事言うんですか? 乃菜ちゃんを守るのは、柊馬さんじゃないんですか?」
「え……?」
「それが、長い時間あそこで過ごしてきた柊馬さんが、守らなきゃいけない約束なんじゃないんですか!?」
瞳を潤ませながら肩を震わせる真理子を、成瀬は驚いたように見つめている。
「真理子……?」
成瀬の長い指が、真理子の頬に触れそうになった時、デスクの内線が大きな音を立てて鳴った。
二人はビクッとして電話を振り返る。
「常務からだ……」
番号を見てそう言うと、成瀬が静かに受話器を上げる。
すると、成瀬の顔が次第に緊張していくのがわかった。
真理子は慌てて駆け寄ると、電話口に顔を寄せた。
「……うちの情報漏洩の件が、匿名掲示板に書き込まれた?」
真理子は成瀬の声に、叫び出しそうになる口元を慌てて両手で覆う。
――どういう事!? 新聞社の次は、匿名掲示板!?
真理子は思わずその場に立ち尽くしていた。