成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「どうかしたか?」
成瀬が真理子の顔を覗き込む。
「実は……」
真理子は躊躇ったのち、データ抽出のログ画面を開いた。
「一点、気になることがあって……。佐伯くんのデータ抽出のログなんです」
「それがどうかしたの?」
話を聞いていた社長も、真理子の後ろから画面を覗き込む。
「さっき柊馬さんに見せてもらった、顧客分析用のデータは個人が特定される情報は入っていませんでした。でも……ログ上は、個人情報を含んだデータを抽出しているんです」
「どういうことだ?」
成瀬が眉をひそめながら、首を傾げる。
「個人情報のデータ抽出には二通りの方法があって、欲しいデータのみを抽出する方法と、一括で情報全てを抽出する方法があります」
「つまり、佐伯は一括で抽出していると?」
真理子は神妙な顔つきで頷く。
「当然、一括で抽出したのちに、必要のない項目を削除したのかも知れません。でも……わざわざそんな事するなんて」
――システム部の人間だったら、ありえない。特に、卓也くんのように、手際がいいタイプなら尚更……。
真理子はそう言いかけて、一瞬言葉を飲み込む。
卓也の事を疑いたくはない。
でもここ最近、様子が変なのは明らかだった。
「佐伯くんと専務の接点は?」
戸惑った顔をする社長に、真理子は大きく首を振る。
「私が知る限りは、皆無です……」
じっと眉間に手を当てていた成瀬が、静かに顔を上げた。
「佐伯を調べてみるか」
「でも……」
真理子は、卓也を疑うことに抵抗を感じ口ごもる。
成瀬がそっと、真理子の肩に手を置いた。
「真理子の、疑いたくない気持ちはよくわかる。ただ、今はこんな状況だ。時間もない。少しでも気になるなら調べるべきだ」
しばらくして、真理子は納得すると小さく頷いた。
「俺は佐伯や専務たちの周辺を調べる。真理子は佐伯の作業のログを追えるか?」
「はい……やってみます」
真理子はできるだけ感情を挟まないように、淡々とログ確認を始めた。
この作業は次の日も続いたが、それでも出てくるのは通常の業務か、社長案件の業務のファイル名のみだ。
――やっぱり、卓也くんじゃない?
真理子が首を傾げていると、隣で成瀬のため息が聞こえた。
「何か見つかったか?」
「いえ。私の方は、それと言っておかしな所は……。柊馬さんの方は?」
成瀬は両手と首を大きく横に振って、背もたれにドサッと身体を預ける。
「専務や橋本との接点は見られない。やはり思い過ごしか……? となると、他の線もあたる必要があるな」
会見は明日に迫っている。
社長は朝から、会見に向けた準備で外出していた。
――もう時間がないのに……。何の手がかりもつかめない。
焦る真理子は、もう一度ログに目を通す。
そして「あれ?」と首を傾げた。
一日だけ、卓也が社長案件のデータファイルを、違うフォルダに保存している日があったのだ。
成瀬が真理子の顔を覗き込む。
「実は……」
真理子は躊躇ったのち、データ抽出のログ画面を開いた。
「一点、気になることがあって……。佐伯くんのデータ抽出のログなんです」
「それがどうかしたの?」
話を聞いていた社長も、真理子の後ろから画面を覗き込む。
「さっき柊馬さんに見せてもらった、顧客分析用のデータは個人が特定される情報は入っていませんでした。でも……ログ上は、個人情報を含んだデータを抽出しているんです」
「どういうことだ?」
成瀬が眉をひそめながら、首を傾げる。
「個人情報のデータ抽出には二通りの方法があって、欲しいデータのみを抽出する方法と、一括で情報全てを抽出する方法があります」
「つまり、佐伯は一括で抽出していると?」
真理子は神妙な顔つきで頷く。
「当然、一括で抽出したのちに、必要のない項目を削除したのかも知れません。でも……わざわざそんな事するなんて」
――システム部の人間だったら、ありえない。特に、卓也くんのように、手際がいいタイプなら尚更……。
真理子はそう言いかけて、一瞬言葉を飲み込む。
卓也の事を疑いたくはない。
でもここ最近、様子が変なのは明らかだった。
「佐伯くんと専務の接点は?」
戸惑った顔をする社長に、真理子は大きく首を振る。
「私が知る限りは、皆無です……」
じっと眉間に手を当てていた成瀬が、静かに顔を上げた。
「佐伯を調べてみるか」
「でも……」
真理子は、卓也を疑うことに抵抗を感じ口ごもる。
成瀬がそっと、真理子の肩に手を置いた。
「真理子の、疑いたくない気持ちはよくわかる。ただ、今はこんな状況だ。時間もない。少しでも気になるなら調べるべきだ」
しばらくして、真理子は納得すると小さく頷いた。
「俺は佐伯や専務たちの周辺を調べる。真理子は佐伯の作業のログを追えるか?」
「はい……やってみます」
真理子はできるだけ感情を挟まないように、淡々とログ確認を始めた。
この作業は次の日も続いたが、それでも出てくるのは通常の業務か、社長案件の業務のファイル名のみだ。
――やっぱり、卓也くんじゃない?
真理子が首を傾げていると、隣で成瀬のため息が聞こえた。
「何か見つかったか?」
「いえ。私の方は、それと言っておかしな所は……。柊馬さんの方は?」
成瀬は両手と首を大きく横に振って、背もたれにドサッと身体を預ける。
「専務や橋本との接点は見られない。やはり思い過ごしか……? となると、他の線もあたる必要があるな」
会見は明日に迫っている。
社長は朝から、会見に向けた準備で外出していた。
――もう時間がないのに……。何の手がかりもつかめない。
焦る真理子は、もう一度ログに目を通す。
そして「あれ?」と首を傾げた。
一日だけ、卓也が社長案件のデータファイルを、違うフォルダに保存している日があったのだ。