成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「どうした!?」

 成瀬が慌てて身体を起こすと、真理子を振り返る。

「あの……。一日だけ、ファイルの保存先を間違えてる日があるんです。でも気がついたのか、すぐに削除されてはいるんですが……」

 真理子は困惑した表情のまま、成瀬の顔を見つめた。
 ログには、卓也がファイルをアップした5分後に、削除している事が記録されている。

「保存先は、どこだったんだ?」
「WEBサーバーの……非公開フォルダです」
「非公開フォルダ? 外部からは、閲覧出来ないって言ってたよな?」
「はい。アクセス権限が設定されているので“非公開”から“公開”に権限を変更しない限りは、閲覧できません」

 真理子の言葉に、成瀬の肩がピクリと反応する。

「ちょっと待て……」

 成瀬は、自分の頭の中を整理するようにしばらく目を閉じてから、ゆっくりと片手を上げた。

「非公開フォルダの、アクセス権限の変更は誰でもできるのか?」
「いえ。それはシステム側で管理しているので、誰でもはできません……」

 そこまで言って、真理子もはっと顔を上げる。

「誰でもはできないが、できないことはない……ってことだよな。特に、システム部の人間には……」

 真理子は思わず口元に手を当てる。
 成瀬の鋭い目が、真理子を正面から見つめた。

「アクセス権限の変更をしたかどうかのログは、こっちで確認できるのか?」

 真理子は目を見開いたまま、しばしフリーズする。
 そして小刻みに震えだす唇を開いた。

「……できません」
「え……?」
「権限変更のログは、残らないんです……。権限変更なんて、普通はしないので……」

 真理子の顔は次第に青ざめていく。
 成瀬は腕を組むと、しばし下を向いて考え込む様子を見せた。

「ちなみに、佐伯が非公開フォルダにアップしたのは、何のファイルだ?」

 しばらくして、成瀬が顔を上げる。

「社長案件の顧客分析のデータファイルです。でも……」
「でも?」
「ログからわかるのは、アップした日時とファイル名のみです。実際の中身は、わからない……」
「つまり、中身とタイトルが別物、って可能性もあるんだな……」

 成瀬はいつもよりもさらに低い声を出すと、念を押すように真理子の顔を覗き込む。
 真理子は小さく頷いた。

「これは俺の推論でしかないが……」

 成瀬は眉間に手を当てると、紙を取り出しペンを走らせる。

「まず、社長案件のデータと偽って、個人情報のリストを作成。それを決められた日時に、WEBサーバーの非公開フォルダにUPし“非公開”の権限を“公開”に変更。それを社外の誰かがダウンロードする……。こういったシナリオも、描けるってことか」

 成瀬のメモ書きを、食い入るように見つめていた真理子は息をのんだ。

「そんなこと……」

 真理子は慌てて立ち上がると、社長のデスクに向かう。

「私、卓也くんに確認します!」

 真理子はそう言うと、デスクの電話の受話器を取り上げた。
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