成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「何か残ってそうか?」

 成瀬は真理子の椅子に手をかけ、後ろから覗き込んでいた。

「共有のメールソフトには何も残ってませんね。WEBメールを使っていたら、探し出せません……」
「ダウンロードしたと思われるファイルは? どこかに保存されていないか?」
「探してみます……」

 真理子は慎重に確認しながら、パソコン内をクリックしていく。
 何度も確認するが、顧客リストと思われるファイルは、何も残っていなかった。

「ちなみに……」

 成瀬が中野を振り返る。

「橋本がその作業をしていた日は、いつか覚えていますか?」
「えっ……と……」

 中野は考え込むように眉間に皺を寄せると、壁に掛かるカレンダーを見上げた。

「あ……この日です」

 しばらくして中野が指さした日付に、真理子は息を止める。

 ――卓也くんが、非公開フォルダにファイルをUPした日と同じ……。

「データの入ったUSBの行方は?」

 成瀬が畳みかけるように質問する。

「……ポケットに入れてました。その先は、知りません」

 真理子の目にも明らかに、成瀬の顔色が悪くなるのがわかった。

「これはもう、黒だと思った方がいいな」

 成瀬は真理子の耳元でつぶやく。

「しかし、証拠がない……」

 成瀬は腕を組むと、目頭を押さえながら苦しい声を漏らした。
 真理子はパソコンの画面をじっと見つめる。

 ――メールは確認できない。ダウンロードしたファイルも、削除されている。……残るは。

 真理子は、はっと顔を上げるとマウスをクリックした。
 デスクトップに表示されているブラウザを開く。

 ――消えてないで……。

 祈るような気持ちと、震える手でブラウザのメニュー画面をクリックした。
 真理子は右側に表示されたリストに、すばやく目線を走らせる。
 そして、ある一か所で目線をストップさせた。

「……あった」

 真理子のつぶやくような声に、成瀬を含めたその場のみんなが一斉に集まり、画面を覗き込む。

「どうした!?」

 真理子は成瀬の顔を見つめると、そのまま表示されたURLをゆっくりとクリックした。

 “お探しのページは表示できません”

 画面には、大きな文字が映し出されている。

「真理子。これは、どういうことだ!?」

 成瀬が困惑した顔を見せた。
 真理子は大きく息を吸ってから、ゆっくりと口を開く。

「これはブラウザの閲覧履歴のリストです。今クリックしたURLは、相手側のアクセス権限が非公開になっているため、この文字が画面に出ます」
「アクセス権限って……まさか!」

 真理子は成瀬の言葉にうなずく。

「そうです。つまり、この履歴からわかる事は……」

 みんなが固唾をのんで、真理子の顔を見つめている。

「サワイライトWEBサーバーの“非公開フォルダを閲覧した”という事実です」

 ブラウザの履歴画面に表示されていた時間は、卓也が非公開フォルダにファイルをアップした5分間と一致していた。
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