成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
揺れる想い
「すぐ、社長に連絡を入れる」
成瀬はそう言うと、事務所の外に出ようと足を出す。
真理子は慌てて成瀬の腕をぐっとつかんだ。
「私は……卓也くんに連絡してみても、いいですか?」
成瀬は一瞬言葉に詰まると、迷った様な表情を浮かべる。
「連絡してどうするんだ? 佐伯は完全に黒だ。下手なことすれば、こっちが不利になる」
「それはわかってます。でも……」
真理子の脳裏に、卓也の怯えるようにうつむいた表情が浮かんだ。
『早く行ってください!』
システム部長が情報漏洩の一報を受けた時、卓也は真理子を怒鳴りつけるようにそう言った。
――あれは、卓也くんの本心だ。
真理子は成瀬の顔をまっすぐに見上げる。
「卓也くんは、たぶん苦しんでる。そう、思うんです」
成瀬はしばらく黙ったまま、真理子の目を見つめていた。
「わかった。真理子の思うようにしろ」
成瀬は小さくそう言うと、社長に連絡するため席を外した。
真理子は鞄からスマートフォンを取り出すと、卓也の番号を探す。
呼び出し音は、何度鳴らしても卓也が出ることはなかった。
真理子は卓也宛てに、一言だけメッセージを打つと、小さくため息をついて画面を閉じる。
すると突然、真理子の横顔に田中さんが、ぐっと顔を覗き込ませた。
真理子はぎょっとして、目を丸くさせる。
「ねぇ、あんた。成瀬さんと良い仲なんだろう?」
「えぇ!?」
深刻な雰囲気をぶち壊すような田中さんのほほ笑みに、真理子は思わずスマートフォンを落としそうになった。
「その慌てっぷり。やっぱりそうなんだぁ。うちの若い子たちが泣くだろうねぇ」
田中さんは、にまにまと口元を引き上げている。
「そ、そんなんじゃないんです……」
大袈裟に両手を振る真理子に、田中さんは不満そうに口をとがらせた。
「そうなの? とてもそうは見えなかったよ。でもほら、あんたは好きなんでしょ?」
田中さんの言葉に、真理子は頬を真っ赤にしてうつむく。
「ま、まぁそうですけど……」
下を向いたまま答える真理子に、田中さんは満足そうに腰に手を当てながらうなずいた。
「ほら! やっぱり!」
「でも、でも……。つい最近、フラれたばかりなんです」
真理子は、てへへと肩をすくめて苦笑いする。
「えぇ!? そうなの!? そうは見えないけどねぇ……」
田中さんは大袈裟にのけ反って驚くと、しきりに首を傾げながら独り言のようにつぶやいた。
真理子が不思議そうに見つめると、田中さんは真理子の顔をじっと覗き込む。
「はっきり言葉で言われたのかい?」
「え……?」
「フラれたって、あんたの勘違いなんじゃないかい?」
「そ、それは……」
田中さんに前のめりに見上げられ、真理子はたじたじになってしまう。
そんな様子に小さくため息をつくと、田中さんは腰をさすりながら身体を元に戻した。
成瀬はそう言うと、事務所の外に出ようと足を出す。
真理子は慌てて成瀬の腕をぐっとつかんだ。
「私は……卓也くんに連絡してみても、いいですか?」
成瀬は一瞬言葉に詰まると、迷った様な表情を浮かべる。
「連絡してどうするんだ? 佐伯は完全に黒だ。下手なことすれば、こっちが不利になる」
「それはわかってます。でも……」
真理子の脳裏に、卓也の怯えるようにうつむいた表情が浮かんだ。
『早く行ってください!』
システム部長が情報漏洩の一報を受けた時、卓也は真理子を怒鳴りつけるようにそう言った。
――あれは、卓也くんの本心だ。
真理子は成瀬の顔をまっすぐに見上げる。
「卓也くんは、たぶん苦しんでる。そう、思うんです」
成瀬はしばらく黙ったまま、真理子の目を見つめていた。
「わかった。真理子の思うようにしろ」
成瀬は小さくそう言うと、社長に連絡するため席を外した。
真理子は鞄からスマートフォンを取り出すと、卓也の番号を探す。
呼び出し音は、何度鳴らしても卓也が出ることはなかった。
真理子は卓也宛てに、一言だけメッセージを打つと、小さくため息をついて画面を閉じる。
すると突然、真理子の横顔に田中さんが、ぐっと顔を覗き込ませた。
真理子はぎょっとして、目を丸くさせる。
「ねぇ、あんた。成瀬さんと良い仲なんだろう?」
「えぇ!?」
深刻な雰囲気をぶち壊すような田中さんのほほ笑みに、真理子は思わずスマートフォンを落としそうになった。
「その慌てっぷり。やっぱりそうなんだぁ。うちの若い子たちが泣くだろうねぇ」
田中さんは、にまにまと口元を引き上げている。
「そ、そんなんじゃないんです……」
大袈裟に両手を振る真理子に、田中さんは不満そうに口をとがらせた。
「そうなの? とてもそうは見えなかったよ。でもほら、あんたは好きなんでしょ?」
田中さんの言葉に、真理子は頬を真っ赤にしてうつむく。
「ま、まぁそうですけど……」
下を向いたまま答える真理子に、田中さんは満足そうに腰に手を当てながらうなずいた。
「ほら! やっぱり!」
「でも、でも……。つい最近、フラれたばかりなんです」
真理子は、てへへと肩をすくめて苦笑いする。
「えぇ!? そうなの!? そうは見えないけどねぇ……」
田中さんは大袈裟にのけ反って驚くと、しきりに首を傾げながら独り言のようにつぶやいた。
真理子が不思議そうに見つめると、田中さんは真理子の顔をじっと覗き込む。
「はっきり言葉で言われたのかい?」
「え……?」
「フラれたって、あんたの勘違いなんじゃないかい?」
「そ、それは……」
田中さんに前のめりに見上げられ、真理子はたじたじになってしまう。
そんな様子に小さくため息をつくと、田中さんは腰をさすりながら身体を元に戻した。