成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
会見の日
次の日、真理子は朝から社長室に向かった。
すでに室内には、社長と成瀬の他に常務の姿がある。
ソファに座る成瀬の隣に、真理子も浅く腰掛けた。
テーブルの上にはノートパソコンが置かれており、社長が会見する予定の会場の様子が、ビデオで映し出されていた。
今日の会見の様子は、広報部がビデオ撮影し、リアルタイムで社内にWEB配信されることになってる。
「随分と席が多く用意されてますね……」
真理子は、眉をひそめながら成瀬を見上げる。
サワイライトのような中小企業の会見に、ここまで多くのマスコミが集まるものなのだろうか。
会場にしても、ホテルの宴会場のようで、情報漏洩の謝罪会見とは到底思えない華やかさだった。
「どうも専務が、方々のマスコミに声をかけたらしいのだよ。会場手配に関しても、専務の指示だったようだね」
ため息をつきながら、常務が横から声を出す。
「まるで野球選手の、引退会見だな……」
成瀬が吐き捨てるように、小さくつぶやいた。
その様子を見て、社長は楽しそうに肩を揺らした。
「こんな花道を用意されたら、引退せざるを得なくなっちゃうよね」
おどける社長を成瀬が睨みつけた時、扉をノックする音が響いた。
その瞬間、その場にいた全員が、はっとして扉を振り返る。
「社長、そろそろお時間が……」
扉から遠慮がちに顔を出したのは、秘書の男性だった。
その顔を見た途端、小さなため息が室内に漏れる。
秘書はみんなのがっかりした様子を見て、慌てて顔を引っ込めた。
「彼は、もう来ないようだね……」
常務の諦めたような声が聞こえ、真理子は自分のスマートフォンを握りしめる。
真理子のスマートフォンに、卓也からメッセージが入ったのは、昨夜遅い時間だった。
“明日、事実を話します”
真理子は、その言葉を信じた。
でも、卓也は現れなかった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。ちゃんと中継見ててよね」
明るくそう言いながら片手を上げる社長に、真理子は泣きそうな顔を向ける。
社長は真理子に近づくと、優しく肩に手をかけた。
「真理子ちゃん、本当にありがとうね。二人が調べてくれたおかげで、顧客情報が漏洩したらしい事実はわかった。今回、一番重要なのはそこだからね」
「社長……」
社長は真理子から手を離すと、小さくため息をつく。
「それにもう一つ。情報漏洩に、うちの社員が関係してたってこともね……」
そう言いながら、社長は壁に掛かる額縁を見上げる。
「顧客に多大な迷惑をかけたことは、事実だからね。それはちゃんと、俺が責任取らないと……」
再び振り返った社長の顔には、固く決意したような表情が浮かんでいた。
すでに室内には、社長と成瀬の他に常務の姿がある。
ソファに座る成瀬の隣に、真理子も浅く腰掛けた。
テーブルの上にはノートパソコンが置かれており、社長が会見する予定の会場の様子が、ビデオで映し出されていた。
今日の会見の様子は、広報部がビデオ撮影し、リアルタイムで社内にWEB配信されることになってる。
「随分と席が多く用意されてますね……」
真理子は、眉をひそめながら成瀬を見上げる。
サワイライトのような中小企業の会見に、ここまで多くのマスコミが集まるものなのだろうか。
会場にしても、ホテルの宴会場のようで、情報漏洩の謝罪会見とは到底思えない華やかさだった。
「どうも専務が、方々のマスコミに声をかけたらしいのだよ。会場手配に関しても、専務の指示だったようだね」
ため息をつきながら、常務が横から声を出す。
「まるで野球選手の、引退会見だな……」
成瀬が吐き捨てるように、小さくつぶやいた。
その様子を見て、社長は楽しそうに肩を揺らした。
「こんな花道を用意されたら、引退せざるを得なくなっちゃうよね」
おどける社長を成瀬が睨みつけた時、扉をノックする音が響いた。
その瞬間、その場にいた全員が、はっとして扉を振り返る。
「社長、そろそろお時間が……」
扉から遠慮がちに顔を出したのは、秘書の男性だった。
その顔を見た途端、小さなため息が室内に漏れる。
秘書はみんなのがっかりした様子を見て、慌てて顔を引っ込めた。
「彼は、もう来ないようだね……」
常務の諦めたような声が聞こえ、真理子は自分のスマートフォンを握りしめる。
真理子のスマートフォンに、卓也からメッセージが入ったのは、昨夜遅い時間だった。
“明日、事実を話します”
真理子は、その言葉を信じた。
でも、卓也は現れなかった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。ちゃんと中継見ててよね」
明るくそう言いながら片手を上げる社長に、真理子は泣きそうな顔を向ける。
社長は真理子に近づくと、優しく肩に手をかけた。
「真理子ちゃん、本当にありがとうね。二人が調べてくれたおかげで、顧客情報が漏洩したらしい事実はわかった。今回、一番重要なのはそこだからね」
「社長……」
社長は真理子から手を離すと、小さくため息をつく。
「それにもう一つ。情報漏洩に、うちの社員が関係してたってこともね……」
そう言いながら、社長は壁に掛かる額縁を見上げる。
「顧客に多大な迷惑をかけたことは、事実だからね。それはちゃんと、俺が責任取らないと……」
再び振り返った社長の顔には、固く決意したような表情が浮かんでいた。