成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「明彦……? お前、まさか……」
静かに社長の言葉を聞いていた成瀬が、はっとして腰を浮かす。
それを見て、社長はおどけるように両手を振った。
「大丈夫だよ、柊馬。俺だって、血迷って発言したりしないから」
社長の笑い声が、静かすぎる部屋に響く。
「じゃあ、行ってくる」
社長は後ろ手に片手を上げると、振り返ることなく出て行った。
バタンと扉の閉まる音が聞こえる。
「どうして……」
真理子はスマートフォンを握りしめた両手を、額に当てながらうつむいた。
常務が「よいしょ」と、声を出して重い腰を上げる。
「私は社員のみんなと一緒に、中継を見てくるよ。社長の誇らしい姿を、ちゃんと先代にお伝えしなきゃいかんからね」
「……常務」
真理子はいつもよりも小さく見える、常務の背中を見送った。
成瀬と二人、音のない部屋で固まったように画面を見つめる。
途方もなく、長い時間が過ぎたような感覚が真理子を襲っていた。
その時、廊下で足音が聞こえた気がして、真理子は扉を振り返る。
「どうした?」
思わず立ち上がる真理子を、成瀬が見上げた。
「今、足音が聞こえた気がして……」
真理子は走って入り口に向かうと、勢いよく扉を開ける。
今にも崩れそうな姿で、扉の前に立ち尽くしていたのは卓也だった。
◆
卓也はソファに腰かけ、頭を垂れるようにうつむいている。
膝の前で握った両手が、小さく震えていた。
真理子は言葉を失い、ただ固まって正面に座る卓也の様子を目で追った。
「お前……今、何て言った……?」
しばらくして、成瀬が自分の思考を整理するように、片手を額に当てると、ゆっくりと口を開いた。
その声に、卓也は静かに顔を上げると、まっすぐに成瀬を見つめる。
その瞳には、もう迷いの色はなかった。
「それが……事実……?」
真理子は茫然としながら、思わず両手を口元に当てた。
今、目の前で聞いた話を、まだうまく処理できていない。
「真理子……」
突然、成瀬に名前を呼ばれ、真理子ははっとして我に返る。
「今すぐ……会見会場に走れ!」
成瀬は卓也を見つめたまま、まっすぐに腕を伸ばし扉を指さした。
「は……はいっ」
真理子は叫ぶと、堰を切ったように扉を押し開けて、会場に向かって走り出した。
静かに社長の言葉を聞いていた成瀬が、はっとして腰を浮かす。
それを見て、社長はおどけるように両手を振った。
「大丈夫だよ、柊馬。俺だって、血迷って発言したりしないから」
社長の笑い声が、静かすぎる部屋に響く。
「じゃあ、行ってくる」
社長は後ろ手に片手を上げると、振り返ることなく出て行った。
バタンと扉の閉まる音が聞こえる。
「どうして……」
真理子はスマートフォンを握りしめた両手を、額に当てながらうつむいた。
常務が「よいしょ」と、声を出して重い腰を上げる。
「私は社員のみんなと一緒に、中継を見てくるよ。社長の誇らしい姿を、ちゃんと先代にお伝えしなきゃいかんからね」
「……常務」
真理子はいつもよりも小さく見える、常務の背中を見送った。
成瀬と二人、音のない部屋で固まったように画面を見つめる。
途方もなく、長い時間が過ぎたような感覚が真理子を襲っていた。
その時、廊下で足音が聞こえた気がして、真理子は扉を振り返る。
「どうした?」
思わず立ち上がる真理子を、成瀬が見上げた。
「今、足音が聞こえた気がして……」
真理子は走って入り口に向かうと、勢いよく扉を開ける。
今にも崩れそうな姿で、扉の前に立ち尽くしていたのは卓也だった。
◆
卓也はソファに腰かけ、頭を垂れるようにうつむいている。
膝の前で握った両手が、小さく震えていた。
真理子は言葉を失い、ただ固まって正面に座る卓也の様子を目で追った。
「お前……今、何て言った……?」
しばらくして、成瀬が自分の思考を整理するように、片手を額に当てると、ゆっくりと口を開いた。
その声に、卓也は静かに顔を上げると、まっすぐに成瀬を見つめる。
その瞳には、もう迷いの色はなかった。
「それが……事実……?」
真理子は茫然としながら、思わず両手を口元に当てた。
今、目の前で聞いた話を、まだうまく処理できていない。
「真理子……」
突然、成瀬に名前を呼ばれ、真理子ははっとして我に返る。
「今すぐ……会見会場に走れ!」
成瀬は卓也を見つめたまま、まっすぐに腕を伸ばし扉を指さした。
「は……はいっ」
真理子は叫ぶと、堰を切ったように扉を押し開けて、会場に向かって走り出した。