成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
会見のはじまり
「さぁ、若造。何を見せてくれる?」
専務は会場の一番後ろで、にやついた口元をゆっくりと撫でる。
会見の開始時間はもう目前だ。
腕時計に目をやったその時、慌てた様子で扉を押し開けた人物に目を見張った。
「せ、専務……」
息を切らしながら、青い顔で入ってきたのは橋本だった。
「お前! 何やってるんだ! しばらく身を隠しておくように、きつく言っただろうが!」
専務は声を押し殺すように橋本に告げると、鋭い目で睨みつける。
「そ、それが……」
橋本は動揺を隠せない様子を見せると、震える手で専務の耳元に手を当てようとした。
その瞬間、会場の電気が暗くなり、正面にスポットライトが当たる。
司会者のアナウンスが流れ、堂々とした出で立ちで社長が現れた。
社長は会場内に一礼すると、座席の前に立ち、おもむろにマイクを取り上げる。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。この度は弊社の“顧客情報 漏洩疑い”の件で世間をお騒がせし、顧客の皆様を不安にさせたこと、心からお詫び申し上げます」
社長は一旦、深々と頭を下げる。
会場内はしーんと静まり返り、カメラのシャッター音だけが響いていた。
広報部が撮影するビデオカメラの奥では、サワイライトの社員たちも、固唾をのんで見守っている事だろう。
「この度の騒ぎの報告を受け、弊社で十分に調査を致しました結果……」
社長は静かに目を閉じた。
そして短く息を吸うと、力強く目を開く。
「その結果“顧客情報漏洩の事実はない”ことが、判明いたしました」
社長の言葉に、会場内は一瞬静けさに包まれたのち、一気にざわつき出す。
「一体……どういう事だ……!?」
会場の一番後ろで聞いていた専務は、驚愕した様子で目を見開いた。
◆
真理子は控え室で、社長の帰りを祈るような気持ちで待っていた。
「どうか社長を、サワイライトを守って……」
目を閉じて両手を合わせると、何度も何度も小さくつぶやく。
真理子がホテルに駆け込んだ時、社長はまさに会見会場の扉に手をかけている時だった。
「社長! 待ってください!」
真理子は大声で叫びながら駆け寄ると、社長の手を握って取っ手から引き離す。
息を切らしながら事情を説明する真理子に、社長は一瞬目を丸くしていたが、優しくほほ笑みながらうなずいた。
「わかった。知らせに来てくれて、本当にありがとう」
社長はそう言うと、真理子の頬に優しく手で触れた。
真理子は両手をぐっと握ると、社長に向かって力強くうなずく。
「行ってくる」
社長はそう言い残すと、会場の扉をぐっと押し開け、颯爽と入って行ったのだ。
専務は会場の一番後ろで、にやついた口元をゆっくりと撫でる。
会見の開始時間はもう目前だ。
腕時計に目をやったその時、慌てた様子で扉を押し開けた人物に目を見張った。
「せ、専務……」
息を切らしながら、青い顔で入ってきたのは橋本だった。
「お前! 何やってるんだ! しばらく身を隠しておくように、きつく言っただろうが!」
専務は声を押し殺すように橋本に告げると、鋭い目で睨みつける。
「そ、それが……」
橋本は動揺を隠せない様子を見せると、震える手で専務の耳元に手を当てようとした。
その瞬間、会場の電気が暗くなり、正面にスポットライトが当たる。
司会者のアナウンスが流れ、堂々とした出で立ちで社長が現れた。
社長は会場内に一礼すると、座席の前に立ち、おもむろにマイクを取り上げる。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。この度は弊社の“顧客情報 漏洩疑い”の件で世間をお騒がせし、顧客の皆様を不安にさせたこと、心からお詫び申し上げます」
社長は一旦、深々と頭を下げる。
会場内はしーんと静まり返り、カメラのシャッター音だけが響いていた。
広報部が撮影するビデオカメラの奥では、サワイライトの社員たちも、固唾をのんで見守っている事だろう。
「この度の騒ぎの報告を受け、弊社で十分に調査を致しました結果……」
社長は静かに目を閉じた。
そして短く息を吸うと、力強く目を開く。
「その結果“顧客情報漏洩の事実はない”ことが、判明いたしました」
社長の言葉に、会場内は一瞬静けさに包まれたのち、一気にざわつき出す。
「一体……どういう事だ……!?」
会場の一番後ろで聞いていた専務は、驚愕した様子で目を見開いた。
◆
真理子は控え室で、社長の帰りを祈るような気持ちで待っていた。
「どうか社長を、サワイライトを守って……」
目を閉じて両手を合わせると、何度も何度も小さくつぶやく。
真理子がホテルに駆け込んだ時、社長はまさに会見会場の扉に手をかけている時だった。
「社長! 待ってください!」
真理子は大声で叫びながら駆け寄ると、社長の手を握って取っ手から引き離す。
息を切らしながら事情を説明する真理子に、社長は一瞬目を丸くしていたが、優しくほほ笑みながらうなずいた。
「わかった。知らせに来てくれて、本当にありがとう」
社長はそう言うと、真理子の頬に優しく手で触れた。
真理子は両手をぐっと握ると、社長に向かって力強くうなずく。
「行ってくる」
社長はそう言い残すと、会場の扉をぐっと押し開け、颯爽と入って行ったのだ。