成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
とんでもない提案
外の蒸し暑さが嘘のように涼しい室内は、どことなく爽やかな、いい香りがしている。
きちんと整頓されたダイニングテーブルの椅子に腰を掛け、真理子はぽかんと口を開けて辺りを見回していた。
白を基調としたセンスの良さがうかがえる部屋は、高層マンションの上層階に位置している。
広いリビングには、十人は座れそうな大きなソファがコの字型に置いてあり、壁一面に広がる窓からは、ネオンに光り輝く街並みが見下ろせた。
定時後、心臓が飛び出そうなほど緊張して待っていた真理子に、成瀬は「時間ですから」とだけ告げると、すたすたと先を歩きだした。
そして連れてこられた先が、ここである。
真理子はもう一度、部屋の中をぐるりと見回す。
――うちの人事課長って、どんだけ高給取りなのよ!?
明らかに真理子の知る、一般家庭とは異なる部屋の様子に唖然としていると、着替えをすませた昨日の女の子が、ツインテールの長い髪の毛を揺らしながら駆け行ってきた。
女の子は真理子には目もくれず、ソファの前のローテーブルにスケッチブックと色鉛筆を置くと、何か夢中で絵を描きだす。
――5.6歳くらいかな?
その時、目の前のキッチンで物音が聞こえだし、真理子は首を伸ばしてカウンターを覗き込んだ。
ふいに飛び込んできた私服姿の成瀬に、自分でも驚くほどドキッとしてしまう。
成瀬は、ラフなシャツとパンツスタイルでグラスにお茶を注ぐと、そのまま真理子の前に置き、自分も正面に腰かけた。
成瀬の顔つきは、昼間の給湯室よりは幾分柔らかだが、やはり鋭い瞳は変わらない。
それにしても、今までこんなに間近でじっくりと、成瀬の麗しい顔を見たことがあっただろうか。
成瀬の顔つきは、バックに流した艶のある黒髪に、細いシルバーのフレームの眼鏡が相まって、色気すら感じる。
真理子は目の前の成瀬を直視できずに、もじもじとうつむいた。
「昼間の話の続きですが」
成瀬は、そんな真理子の様子には一切関せず、静かに口を開く。
「単刀直入に言います。水木真理子さん」
「は、はい」
真理子はドキドキと早くなる脈を感じながら、上目づかいで成瀬を見る。
成瀬は両手を机の上で組むと、真理子の顔を正面から見据えた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「あなたには、私のパートナーになっていただきたい」
「え……?」
真理子はぽかんと口を開けると、しばしフリーズしてしまう。
そして次第に真っ赤になる頬に手を当て、唇を小刻みに震わせた。
「そ、それって……つまり、その……。えぇ!?」
真理子は、しどろもどろになりながら声を出す。
――パートナーって、つまりはそういう意味?
今にも破裂しそうな心臓を押さえるように、ぎゅっと両手を胸の前で握りながら、もう一度、成瀬の顔を見上げた。
さっきまで見せていた成瀬の冷たい瞳が、今は妙に熱を帯びて見えるのは、真理子の心境のせいだろうか。
真理子はたまらずに、身を乗り出して立ちあがった。
「は、はい……! なります。あなたのパートナーに」
思わず口をついて出た真理子の言葉に、成瀬は一瞬目を開くと、そのまま口元を緩ませながら眼鏡を外した。
――王子が……笑った……。
真理子は初めて目撃した“クール王子の笑顔”の破壊力の大きさに、目眩すら感じ身動きできなくなる。
きちんと整頓されたダイニングテーブルの椅子に腰を掛け、真理子はぽかんと口を開けて辺りを見回していた。
白を基調としたセンスの良さがうかがえる部屋は、高層マンションの上層階に位置している。
広いリビングには、十人は座れそうな大きなソファがコの字型に置いてあり、壁一面に広がる窓からは、ネオンに光り輝く街並みが見下ろせた。
定時後、心臓が飛び出そうなほど緊張して待っていた真理子に、成瀬は「時間ですから」とだけ告げると、すたすたと先を歩きだした。
そして連れてこられた先が、ここである。
真理子はもう一度、部屋の中をぐるりと見回す。
――うちの人事課長って、どんだけ高給取りなのよ!?
明らかに真理子の知る、一般家庭とは異なる部屋の様子に唖然としていると、着替えをすませた昨日の女の子が、ツインテールの長い髪の毛を揺らしながら駆け行ってきた。
女の子は真理子には目もくれず、ソファの前のローテーブルにスケッチブックと色鉛筆を置くと、何か夢中で絵を描きだす。
――5.6歳くらいかな?
その時、目の前のキッチンで物音が聞こえだし、真理子は首を伸ばしてカウンターを覗き込んだ。
ふいに飛び込んできた私服姿の成瀬に、自分でも驚くほどドキッとしてしまう。
成瀬は、ラフなシャツとパンツスタイルでグラスにお茶を注ぐと、そのまま真理子の前に置き、自分も正面に腰かけた。
成瀬の顔つきは、昼間の給湯室よりは幾分柔らかだが、やはり鋭い瞳は変わらない。
それにしても、今までこんなに間近でじっくりと、成瀬の麗しい顔を見たことがあっただろうか。
成瀬の顔つきは、バックに流した艶のある黒髪に、細いシルバーのフレームの眼鏡が相まって、色気すら感じる。
真理子は目の前の成瀬を直視できずに、もじもじとうつむいた。
「昼間の話の続きですが」
成瀬は、そんな真理子の様子には一切関せず、静かに口を開く。
「単刀直入に言います。水木真理子さん」
「は、はい」
真理子はドキドキと早くなる脈を感じながら、上目づかいで成瀬を見る。
成瀬は両手を机の上で組むと、真理子の顔を正面から見据えた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「あなたには、私のパートナーになっていただきたい」
「え……?」
真理子はぽかんと口を開けると、しばしフリーズしてしまう。
そして次第に真っ赤になる頬に手を当て、唇を小刻みに震わせた。
「そ、それって……つまり、その……。えぇ!?」
真理子は、しどろもどろになりながら声を出す。
――パートナーって、つまりはそういう意味?
今にも破裂しそうな心臓を押さえるように、ぎゅっと両手を胸の前で握りながら、もう一度、成瀬の顔を見上げた。
さっきまで見せていた成瀬の冷たい瞳が、今は妙に熱を帯びて見えるのは、真理子の心境のせいだろうか。
真理子はたまらずに、身を乗り出して立ちあがった。
「は、はい……! なります。あなたのパートナーに」
思わず口をついて出た真理子の言葉に、成瀬は一瞬目を開くと、そのまま口元を緩ませながら眼鏡を外した。
――王子が……笑った……。
真理子は初めて目撃した“クール王子の笑顔”の破壊力の大きさに、目眩すら感じ身動きできなくなる。