成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
本当のこと
社長室に、ひどくやつれた様子の卓也が現れた時、真理子は思わず卓也の手を取ると、そのまま中へと引き入れた。
「卓也くん……」
心配そうに眉をひそめる真理子に、卓也はうつむいたまま小さく笑う。
「だから言ったじゃないですか。あんまり人の事、信じすぎると、いつか酷い目に合いますよって……」
「でも、来てくれた」
真理子はそう言うと、目を潤ませる。
卓也は、ソファに腰かける成瀬に顔を向けると、深々と頭を下げた。
「話を聞かせてもらおうか」
成瀬の低い声が室内に響いた。
卓也はこくんとうなずくと、成瀬の前に腰かける。
真理子も緊張した顔つきで、成瀬の隣に座った。
「真理子さんなら、気がついてくれると思ってました。俺が、隠したメッセージに……」
卓也は小さな声で話しだす。
「メッセージ?」
真理子は、何のことを言っているのかわからず、首を傾げた。
「新聞社へ、書き込みをしたのは俺です」
卓也の言葉に真理子は驚いて、成瀬と顔を見合わせる。
「書き込んだのは、お客様じゃないってこと……?」
卓也は小さくうなずいた。
「はい。あれは、専務や橋本さんを出し抜くために送った、メッセージだったんです」
「え……? どういうこと?」
真理子は話の意図がつかめず、首を傾げる。
「“顧客情報が閲覧可能になっている”っていう情報が入れば、真理子さんなら引っかかって調べてくれると思いました。WEBサーバーに、ファイルがアップされたことを疑ってくれるって」
「なんで、わざわざそんな事を?」
成瀬が鋭く卓也の顔を覗き込む。
「専務や橋本さんが、名簿業者にデータを渡さなかった場合を考えて……です。あの二人がやろうとしたことの、証拠を残しておきたかった」
卓也は顔を上げると、成瀬の顔をまっすぐに見つめた。
「橋本さんにダウンロードさせた顧客データは、オンラインショップを作る際に使った“ダミーデータ”なんです」
「ダミーデータ!?」
真理子が小さく叫び、成瀬ははっと息を止める。
「はい。サワイライトの顧客情報は、一切漏洩していません。名簿業者が持っている顧客データは、全くのデタラメです」
真理子は息をのむと、そのまま動けなくなった。
室内には重苦しい沈黙が続く。
「ちょっと待て……。お前……今、何て言った……?」
しばらくして、成瀬が自分の思考を整理するように、片手を額に当てると、ゆっくりと口を開いた。
その声に、卓也は静かに顔を上げ、真理子を見つめる。
「昨日、真理子さんから“非公開フォルダの、閲覧履歴を見つけました”っていうメッセージを受け取った時、やっぱり気がついてくれたんだとわかりました。それでも俺は、一度は会社を裏切ろうとした人間です。ここに来るのは、勇気が必要でした……すみません」
「卓也くん……」
心配そうに眉をひそめる真理子に、卓也はうつむいたまま小さく笑う。
「だから言ったじゃないですか。あんまり人の事、信じすぎると、いつか酷い目に合いますよって……」
「でも、来てくれた」
真理子はそう言うと、目を潤ませる。
卓也は、ソファに腰かける成瀬に顔を向けると、深々と頭を下げた。
「話を聞かせてもらおうか」
成瀬の低い声が室内に響いた。
卓也はこくんとうなずくと、成瀬の前に腰かける。
真理子も緊張した顔つきで、成瀬の隣に座った。
「真理子さんなら、気がついてくれると思ってました。俺が、隠したメッセージに……」
卓也は小さな声で話しだす。
「メッセージ?」
真理子は、何のことを言っているのかわからず、首を傾げた。
「新聞社へ、書き込みをしたのは俺です」
卓也の言葉に真理子は驚いて、成瀬と顔を見合わせる。
「書き込んだのは、お客様じゃないってこと……?」
卓也は小さくうなずいた。
「はい。あれは、専務や橋本さんを出し抜くために送った、メッセージだったんです」
「え……? どういうこと?」
真理子は話の意図がつかめず、首を傾げる。
「“顧客情報が閲覧可能になっている”っていう情報が入れば、真理子さんなら引っかかって調べてくれると思いました。WEBサーバーに、ファイルがアップされたことを疑ってくれるって」
「なんで、わざわざそんな事を?」
成瀬が鋭く卓也の顔を覗き込む。
「専務や橋本さんが、名簿業者にデータを渡さなかった場合を考えて……です。あの二人がやろうとしたことの、証拠を残しておきたかった」
卓也は顔を上げると、成瀬の顔をまっすぐに見つめた。
「橋本さんにダウンロードさせた顧客データは、オンラインショップを作る際に使った“ダミーデータ”なんです」
「ダミーデータ!?」
真理子が小さく叫び、成瀬ははっと息を止める。
「はい。サワイライトの顧客情報は、一切漏洩していません。名簿業者が持っている顧客データは、全くのデタラメです」
真理子は息をのむと、そのまま動けなくなった。
室内には重苦しい沈黙が続く。
「ちょっと待て……。お前……今、何て言った……?」
しばらくして、成瀬が自分の思考を整理するように、片手を額に当てると、ゆっくりと口を開いた。
その声に、卓也は静かに顔を上げ、真理子を見つめる。
「昨日、真理子さんから“非公開フォルダの、閲覧履歴を見つけました”っていうメッセージを受け取った時、やっぱり気がついてくれたんだとわかりました。それでも俺は、一度は会社を裏切ろうとした人間です。ここに来るのは、勇気が必要でした……すみません」