成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
卓也は、膝にこすりつけるように頭を下げる。
「それが……事実……?」
真理子は茫然としながら、思わず両手を口元に当てた。
「すぐに、社長に連絡を入れる……」
成瀬はポケットからスマートフォンを取り出すと、慌てて画面をタップする。
呼び出し音を鳴らし続けるが、一向に社長にはつながらない。
成瀬は顔を上げると、まっすぐに腕を伸ばし扉を指さした。
「真理子! 今すぐ……会見会場に走れ!」
「は……はいっ」
成瀬の声に、真理子は社長室を飛び出して行った。
真理子が駆けだして行った社長室は、急に静けさが戻る。
成瀬はソファの背に、背中をあずけると小さくため息をついた。
「何で、こんなことを?」
成瀬は静かに卓也を見つめる。
卓也は自分をあざけるかのように小さく笑った。
「俺、真理子さんの事が好きだったんですよ」
卓也の言葉に、成瀬の瞳が丸く開いた。
「真理子さんは、人の世話ばっかやいてて恋愛音痴だし、安心してたんです。でも……社長と専務の騒動の時、真理子さんが家政婦をしているって話を初めて知った。俺、すごく焦ったし、憤ったんです」
卓也は笑いながら頭をかくと、成瀬の顔を見上げる。
「成瀬課長も、真理子さんの事、好きなんですよね?」
成瀬は目を開いたまま、じっと動かない。
「ここに来て、成瀬課長の雰囲気が、いつもと全然違ってびっくりしました。真理子さんには見せてたんですね。本当の自分を……」
「え……」
卓也は静かにほほ笑んだ。
「多分、専務にとっては、俺の小さな不安や不満が、格好の餌食だったんでしょう……」
「それが会社を裏切った理由なのか……?」
卓也は小さく首を振る。
「専務からこの話を持ちかけられた時、『社長は今後、イルミネーションライトだけを重視し、過去の付き合いはバッサリ切るだろう』って言われました。俺は真理子さんと同じで、電飾玩具を大切に思ってきた。だからこそ、会社も、社長も信じられなくなった……」
成瀬は、はたと顔を上げる。
「そうか……お前の実家って、あの王冠を作っている町工場だったな」
成瀬の声に、卓也はそっとうなずいた。
「でも実際に、ファイルをアップする段階になって迷い出したんです。そんな時、真理子さんの机の上の、王冠のおもちゃが目に入って……」
卓也は成瀬を見上げると、吹っ切れたような笑顔を見せる。
「それで踏みとどまりました。真理子さんが大切にしているこの会社を、あの王冠の光を汚してはならないって」
「佐伯……」
「真理子さんって、すごいんですよ。あの人の魅力は、知ってる人には痛いほどわかる。成瀬課長も、社長もそうですよね?」
笑顔で顔を覗き込む卓也に、成瀬は戸惑った表情を浮かべる。
「俺は、ここでリタイアです。こんな騒動を引き起こした分際ですけど、成瀬課長も、おちおちしてたら社長に奪われちゃいますよ。社長みたいに、自分の本心をまっすぐ伝えられる人は強いですから。秘密主義者じゃ……敵わない。そうでしょ?」
卓也のすっきりとした瞳は、まるで成瀬の心の中までも、見透かしているかのようだった。
「それが……事実……?」
真理子は茫然としながら、思わず両手を口元に当てた。
「すぐに、社長に連絡を入れる……」
成瀬はポケットからスマートフォンを取り出すと、慌てて画面をタップする。
呼び出し音を鳴らし続けるが、一向に社長にはつながらない。
成瀬は顔を上げると、まっすぐに腕を伸ばし扉を指さした。
「真理子! 今すぐ……会見会場に走れ!」
「は……はいっ」
成瀬の声に、真理子は社長室を飛び出して行った。
真理子が駆けだして行った社長室は、急に静けさが戻る。
成瀬はソファの背に、背中をあずけると小さくため息をついた。
「何で、こんなことを?」
成瀬は静かに卓也を見つめる。
卓也は自分をあざけるかのように小さく笑った。
「俺、真理子さんの事が好きだったんですよ」
卓也の言葉に、成瀬の瞳が丸く開いた。
「真理子さんは、人の世話ばっかやいてて恋愛音痴だし、安心してたんです。でも……社長と専務の騒動の時、真理子さんが家政婦をしているって話を初めて知った。俺、すごく焦ったし、憤ったんです」
卓也は笑いながら頭をかくと、成瀬の顔を見上げる。
「成瀬課長も、真理子さんの事、好きなんですよね?」
成瀬は目を開いたまま、じっと動かない。
「ここに来て、成瀬課長の雰囲気が、いつもと全然違ってびっくりしました。真理子さんには見せてたんですね。本当の自分を……」
「え……」
卓也は静かにほほ笑んだ。
「多分、専務にとっては、俺の小さな不安や不満が、格好の餌食だったんでしょう……」
「それが会社を裏切った理由なのか……?」
卓也は小さく首を振る。
「専務からこの話を持ちかけられた時、『社長は今後、イルミネーションライトだけを重視し、過去の付き合いはバッサリ切るだろう』って言われました。俺は真理子さんと同じで、電飾玩具を大切に思ってきた。だからこそ、会社も、社長も信じられなくなった……」
成瀬は、はたと顔を上げる。
「そうか……お前の実家って、あの王冠を作っている町工場だったな」
成瀬の声に、卓也はそっとうなずいた。
「でも実際に、ファイルをアップする段階になって迷い出したんです。そんな時、真理子さんの机の上の、王冠のおもちゃが目に入って……」
卓也は成瀬を見上げると、吹っ切れたような笑顔を見せる。
「それで踏みとどまりました。真理子さんが大切にしているこの会社を、あの王冠の光を汚してはならないって」
「佐伯……」
「真理子さんって、すごいんですよ。あの人の魅力は、知ってる人には痛いほどわかる。成瀬課長も、社長もそうですよね?」
笑顔で顔を覗き込む卓也に、成瀬は戸惑った表情を浮かべる。
「俺は、ここでリタイアです。こんな騒動を引き起こした分際ですけど、成瀬課長も、おちおちしてたら社長に奪われちゃいますよ。社長みたいに、自分の本心をまっすぐ伝えられる人は強いですから。秘密主義者じゃ……敵わない。そうでしょ?」
卓也のすっきりとした瞳は、まるで成瀬の心の中までも、見透かしているかのようだった。