成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】

会見のあとで

 コンコンと控室の扉をノックする音が聞こえ、真理子は慌てて立ち上がった。

「社長!」

 会見が終わり、うつむきながら入って来た社長の姿に、真理子は慌てて側に駆け寄る。

「……大丈夫ですか?」

 心配そうに覗き込む真理子を見つめると、社長はそのまま真理子をぎゅっと抱きしめた。

「え……」

 真理子は突然のことに驚いて呆然とする。

「あ、あの……社長……」

 たどたどしく声を出しながら、真理子ははっとした。
 真理子を抱きしめる社長の身体は、小刻みに震えている。

「……怖かった」

 しばらくして社長は、声を押し殺すように小さくつぶやいた。

「全部、失うんじゃないかって……本当は、ずっと怖かったんだ……」

 いつも明るくはつらつとしている社長からは、思いもつかない程、弱々しく苦しい声。

 ――あぁ、そうか。社長は不安も口にできず、ずっと一人で抱えてたんだ……。

 真理子は、いても立ってもいられなくなり、社長の背中に手を回すとぎゅっと力を入れる。

「大丈夫です。もう安心して……」

 真理子の声に、社長の呼吸が次第に穏やかになっていく。
 真理子は、社長の背中を何度もゆっくりとさすった。

「社長はたった一人で、大勢の人の疑惑の目に立ち向かってくれた。ちゃんと説明してくれた。その姿は本当に立派でした。社長なら、お客様の信頼も、必ず取り戻せると思っています。だからもう、安心してください……」
「真理子ちゃん……」

 次第に社長の身体から震えが止まり、力が抜けていく。
 社長は真理子の両肩に手をかけると、ゆっくりと身体を離し、真理子の顔を正面から見つめた。

「ありがとう」

 社長の声に、真理子は目じりの涙を拭いながらほほ笑んだ。

「真理子ちゃんがいなかったら、この危機は乗り越えられなかったと思うよ」

 そう言った社長に、真理子は小さく首を横に振った。

「私だけの力じゃありません。本社も現場のスタッフも、それぞれの会社を想う気持ちが、この結果につながっただけです。私たちがそう思える会社にしてくれたのは、社長ですよ」

 ぱっと笑顔を向けながら言う真理子の姿に、社長は驚いたように目を丸くする。
 そして真理子の顔をじっと見つめた後、小さく「決めた」とつぶやいた。
 社長の声に、真理子は首を傾げる。

「なんでもない!」

 おどけながらそう言う社長の顔は、いつもの明るい顔に戻っていた。
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