成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 プログラム画面をじっと見つめていた真理子は、一旦大きく伸びをした。

「そう言えば前に卓也くんが、誕生日にブルーライトカットのメガネを、買ってくれるって言ってたっけ……」

 真理子は思い出し笑いをすると、そっと誰も座っていない、隣のデスクに目をやる。
 いつの間にか、卓也が座っていないことにも慣れてしまった自分に、小さくため息をついた。

「誕生日かぁ」

 真理子は、デスクに置いている卓上カレンダーを手に取り数枚めくる。
 そして自分の誕生日を見つけると、指でそっとなぞった。
 しばらく恋愛から遠ざかっていた真理子は、ここ数年、誕生日といえども日常と変わらず一人で過ごしてきた。
 でも、今年は……。

「一緒にすごしたいなぁ……」

 真理子はペンを取ると、誕生日の日付の所に、あのハートのステッキの絵を描いた。

「夢が叶いますように……」

 そうつぶやいた真理子は、突然背後に人影を感じて、慌てて振り返る。

「水木さん。少しいいですか?」

 耳に心地よい低い声が聞こえた。
 成瀬は久しぶりに見せる“クール王子”の顔つきで、静かに佇んでいる。

 ――さっきの独り言、聞こえてないよね……?

 真理子は、ドキドキする心のまま、成瀬について会議室に入った。
 ブラインドが上げられた会議室には、柔らかい陽の光が差し込んでいる。
 窓からは、淡い水色の空が見えた。

 成瀬は窓際に立つと、真理子に背を向けたまま、静かに眼鏡を外す。
 真理子はその艶っぽさすら感じる後姿を、見とれるように目で追った。

「明彦が、お前を社長秘書にするって言ってる」

 突然発せられた成瀬からの予想外の言葉に、真理子は一瞬、何を言われたのか理解できない。

「え……?」

 聞き返すように、首を傾げた。

「もう上層部では、その方向で話が進んでいる。今抱えている業務の、引継ぎの準備を進めて欲しい」

 淡々と告げる成瀬に、真理子は我に返ると、思わず駆け寄る。

「ま、待ってください。社長の秘書なんて……。そんな事、急に言われても、頭がついていきません」

 うつむく真理子に、成瀬が優しい目を向ける。

「お前ならできるよ。それは人事部として、俺も納得している」

 成瀬の声に、真理子はそっと顔を上げた。
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