成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
 真理子がマンションのインターホンを押すと、満面の笑みの乃菜と社長に出迎えられた。
 乃菜は「せーの!」と合図を送る。
 パンと音が鳴ってクラッカーが弾けた。

「まりこちゃん! おたんじょうび、おめでとうー」

 大きな声と共に抱きつく乃菜に、真理子は目をまんまるにさせる。

「え……。どうして、知ってるんですか?」

 社長は笑顔のまま、驚いた表情の真理子の手を取ると、ゆっくりと中へ案内した。
 リビングに入った途端、真理子は口元を両手で覆う。

 “ハッピーバースデー まりこちゃん”

 大きく書かれた文字とともに、部屋は風船や折り紙のガーランドであふれている。
 そしてその飾りを彩るように、天井にはイルミネーションライトが波上に取り付けられ、キラキラと輝いていた。

「……すごい」

 真理子は言葉を失ってその場に立ち尽くす。

「乃菜がね、どうしても手作りのお祝いをしたいって言って。朝から二人で準備したんだよ」

 社長は乃菜と顔を見合わせると、にっこりとほほ笑んだ。
 今日の午前中に社長が私用で遅れたのは、この準備のためだったのかと、真理子は胸がいっぱいになる思いだった。

「まりこちゃん! のな、がんばったんだよ」

 乃菜は握った両手をぶんぶんと振りながら、笑顔で真理子を見上げている。
 真理子はしゃがみ込むと、乃菜をぎゅっと抱きしめた。

「乃菜ちゃん、本当にありがとう。こんな素敵なお祝いをしてもらったのは、初めてだよ……」

 そう言いながら、真理子の声はうわずってくる。

「まりこちゃん、ないてるの?」

 乃菜が心配そうに顔を覗き込んだ。
 真理子は大きく首を横に振る。

「悲しくて泣いてるんじゃないよ。嬉しいの。すごくすごく、嬉しいんだよ」

 真理子がにっこりとほほ笑むと、乃菜は安心したように大きくうなずいた。

「のなね、まりこちゃんには、いつもわらっててほしいの」

 乃菜はそう言うと、画用紙に描いた絵を真理子に手渡した。

「これは……?」

 真理子は絵を見て、はっと乃菜と社長の顔を見上げる。
 二人は同じ顔で、優しく笑っていた。
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