成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
真理子は成瀬の胸に顔をうずめたまま、何度も何度も首を横に振った。
「真理子」
成瀬は真理子の名前を呼ぶと、そっと顔を覗き込む。
「お前の事を離したくない。初めてなんだ。こんな気持ちになったのは……」
「柊馬さん……」
真理子は成瀬の腕の中で、そっと顔を見上げる。
成瀬は真理子にほほ笑むと、ゆっくりと目線を前に向けた。
「明彦……やっぱり、真理子は渡せない」
社長は成瀬の言葉にふっと小さく笑うと、ゆっくりとこちらへ近づいて来る。
「いいよ、もう覚悟してたことだからね……。やっぱり俺じゃ、役不足だったってこと!」
あははと笑いながらそう言ったあと、社長は真面目な顔をして成瀬を見た。
「でも……初めてだよね。柊馬が俺に本心を言ったのは、初めてだ」
「明彦……」
「柊馬は、人を思いやりすぎるんだよ。時には自分勝手になったっていい。その方が、人間らしいでしょ?」
社長はおどけたように言うと、真理子に向き直る。
そして、真理子が握りしめている、乃菜の絵をそっと見つめた。
「乃菜と俺の想いは、届いたみたいだね。これで安心して身を引ける」
「社長……」
「真理子ちゃん。またね」
社長はくるっと向きを変えると、後ろ手に手を振りながらマンションの入り口へと消えて行った。
真理子は成瀬とともに、その後ろ姿を静かに見送る。
「乃菜と明彦の想いって?」
しばらくして成瀬が、不思議そうな顔をしながら、真理子の手元を覗き込んだ。
真理子は、乃菜からもらった絵をそっと広げる。
「これは……」
絵を覗き込んだ成瀬が、目を丸くした。
真理子は首をすくめながら小さくうなずく。
そこに描かれていたのは、お揃いのエプロン姿で手をつなぐ、真理子と成瀬の絵だった。
『のなね、まりこちゃんには、いつもわらっててほしいの』
乃菜の可愛らしい声が、真理子の中で響いた。
『とうたんと、いっしょにいるときのまりこちゃんが、いちばんわらってるから。のなも、パパも、おうえんしてるよ』
真理子は顔を上げると、成瀬をじっと見つめた。
「このプレゼントをもらった時、社長に言われました。『自信を持っていいんだよ』って……。私、ずっと敵わないと思ってたんです。柊馬さんは、きっと今でも佳菜さんの事が好きなんだろう、と思って……」
成瀬は驚いたように目を丸くすると、真理子の両肩をキュッとつかむ。
「だからあの日、泣きながらマンションを飛び出したのか?」
真理子はうつむいて、小さくうなずく。
「はっきり聞くのが怖かった。柊馬さんの気持ちを聞く、勇気がなかったんです……」
成瀬は大きくため息をつくと、真理子を抱き寄せて頭をポンポンと優しく撫でた。
「俺は、本当に不器用だな……。そんなつもりで、言ったんじゃないんだ……」
「でも佳菜さんが、初めて笑い方を教えてくれたって……」
真理子がそっとスーツの裾をつかむと、成瀬は穏やかな表情で真理子の顔を覗き込んだ。
「真理子」
成瀬は真理子の名前を呼ぶと、そっと顔を覗き込む。
「お前の事を離したくない。初めてなんだ。こんな気持ちになったのは……」
「柊馬さん……」
真理子は成瀬の腕の中で、そっと顔を見上げる。
成瀬は真理子にほほ笑むと、ゆっくりと目線を前に向けた。
「明彦……やっぱり、真理子は渡せない」
社長は成瀬の言葉にふっと小さく笑うと、ゆっくりとこちらへ近づいて来る。
「いいよ、もう覚悟してたことだからね……。やっぱり俺じゃ、役不足だったってこと!」
あははと笑いながらそう言ったあと、社長は真面目な顔をして成瀬を見た。
「でも……初めてだよね。柊馬が俺に本心を言ったのは、初めてだ」
「明彦……」
「柊馬は、人を思いやりすぎるんだよ。時には自分勝手になったっていい。その方が、人間らしいでしょ?」
社長はおどけたように言うと、真理子に向き直る。
そして、真理子が握りしめている、乃菜の絵をそっと見つめた。
「乃菜と俺の想いは、届いたみたいだね。これで安心して身を引ける」
「社長……」
「真理子ちゃん。またね」
社長はくるっと向きを変えると、後ろ手に手を振りながらマンションの入り口へと消えて行った。
真理子は成瀬とともに、その後ろ姿を静かに見送る。
「乃菜と明彦の想いって?」
しばらくして成瀬が、不思議そうな顔をしながら、真理子の手元を覗き込んだ。
真理子は、乃菜からもらった絵をそっと広げる。
「これは……」
絵を覗き込んだ成瀬が、目を丸くした。
真理子は首をすくめながら小さくうなずく。
そこに描かれていたのは、お揃いのエプロン姿で手をつなぐ、真理子と成瀬の絵だった。
『のなね、まりこちゃんには、いつもわらっててほしいの』
乃菜の可愛らしい声が、真理子の中で響いた。
『とうたんと、いっしょにいるときのまりこちゃんが、いちばんわらってるから。のなも、パパも、おうえんしてるよ』
真理子は顔を上げると、成瀬をじっと見つめた。
「このプレゼントをもらった時、社長に言われました。『自信を持っていいんだよ』って……。私、ずっと敵わないと思ってたんです。柊馬さんは、きっと今でも佳菜さんの事が好きなんだろう、と思って……」
成瀬は驚いたように目を丸くすると、真理子の両肩をキュッとつかむ。
「だからあの日、泣きながらマンションを飛び出したのか?」
真理子はうつむいて、小さくうなずく。
「はっきり聞くのが怖かった。柊馬さんの気持ちを聞く、勇気がなかったんです……」
成瀬は大きくため息をつくと、真理子を抱き寄せて頭をポンポンと優しく撫でた。
「俺は、本当に不器用だな……。そんなつもりで、言ったんじゃないんだ……」
「でも佳菜さんが、初めて笑い方を教えてくれたって……」
真理子がそっとスーツの裾をつかむと、成瀬は穏やかな表情で真理子の顔を覗き込んだ。