惚れさせゲーム
○学校・図書室(放課後)

図書室には、ページをめくる音とわずかな話し声が響いている。

机に突っ伏していた翼が、ふと顔を上げて紗菜のノートを覗き込んだ。

翼「なあ、これってどうやって解くんだ?」

ノートの片隅に書かれた複雑な数式を指差す。

紗菜は一瞬視線を動かしたが、すぐにペンを走らせた。

紗菜「……見てても分からないと思うけど」

翼「お、挑戦的な態度だな?」

翼はいたずらっぽく笑いながら、勝手に紗菜のノートを自分の方に引き寄せた。

紗菜「ちょ、ちょっと! 何するの!」

翼「解いてみるだけだって」

シャーペンを手に取ると、翼は真剣な表情で問題を見つめる。

紗菜(モノローグ)
「……この問題、結構難しいはず」
「適当にやろうとしても、すぐに手が止まるはず」

しかし、翼は数秒考え込んだ後、スラスラと式を書き始めた。

紗菜(モノローグ)
(え……?)

翼「こうやって、こうやって……はい、答え」

シャーペンを置くと、翼は満足げにノートを紗菜に返す。

そこには、正しい答えが導き出されていた。

紗菜「……嘘でしょ」

思わず呟く。

紗菜自身が、何分も悩んだ問題を、翼はあっさり解いてしまった。*

翼「え、間違ってた?」

紗菜は急いで自分の解答と照らし合わせる。間違いは、ない。

紗菜(モノローグ)
「どうして……? 私、ずっとこの問題に悩んでたのに」

呆然とする紗菜をよそに、翼は軽く伸びをした。

翼「俺も数学は得意なんだよ。ほら、学年トップ争ってるし」

紗菜「……っ」

紗菜は唇を噛みしめる。

認めたくないけれど、事実だった。

紗菜(モノローグ)
「こいつは、努力している私と違って――」

「まるで、"才能"であっさりこなしているみたい」

翼「ん? どうした?」

翼が覗き込む。

紗菜は思わず顔を背けた。

紗菜「……なんでもない」

不機嫌そうに言うと、再びノートに向き直る。

だけど、心のどこかで焦りが募っていく。

紗菜(モノローグ)
「負けたくない」
「絶対に、こいつには負けたくないのに――」

ペンを持つ手に、力がこもる。

そんな紗菜を、翼はどこか楽しげな表情で見つめていた。
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