惚れさせゲーム
○学校・図書室(放課後)
図書室の窓から、夕陽が差し込んでいる。

問題を解き続ける紗菜の横で、翼が腕を組んでじっと彼女を見つめていた。

紗菜「……何?」

翼「いや、頑張るなーって」

紗菜「当たり前でしょ。私は努力しないとトップでいられないんだから」

翼「ふーん」

翼は椅子にもたれかかりながら、どこか考え込むように天井を見上げた。*

そして、不意に口を開く。

翼「なあ、三峰」

紗菜「なに?」

翼「俺、お前のこと惚れさせるわ」

紗菜「……は?」

紗菜の手が止まり、ペンの先がノートに小さな黒い点を作る。

紗菜「……え、今なんて?」

翼「だから、言っただろ? お前のこと惚れさせるって」

翼は至って真面目な表情で、まっすぐに紗菜を見つめていた。

冗談でも、からかいでもない――そんな目だった。

紗菜「……」

紗菜の脳内に、衝撃が駆け巡る。

紗菜(モノローグ)
「何言ってんの、こいつ……?」

(冗談でしょ? いや、冗談に決まってる……)

そう思いたいのに、翼の真剣な眼差しが、それを許さなかった。

紗菜「……バカじゃないの?」

努めて冷静に言い放つが、ほんの少し声が震えた。

翼「バカじゃないよ。俺、本気だし」

紗菜「は?」

翼はニッと笑って、紗菜の方へ身を乗り出す。

翼「ま、見てなって。そのうち、お前も俺のこと意識するようになるから」

余裕たっぷりにそう言うと、翼は椅子から立ち上がった。

翼「今日はこのへんで帰るわ。また明日な、三峰」

軽く手を振って、図書室の扉へ向かう。

紗菜は呆然と、翼の背中を見送った。

紗菜(モノローグ)
「……ありえない。絶対にありえない」

(私はあんなやつになんか惚れない。絶対に、絶対に――)

だけど、この日から。

紗菜の心に、"桃瀬翼"の存在が、少しずつ入り込んでいくことになる。
< 4 / 45 >

この作品をシェア

pagetop